死にたい、何度もそう思った。
どんなにお金を集めても
どんなに研究を続けても
殆ど成果の得られない地獄。
小さく不便な身体。
呪われた身体。
自分が嫌で嫌で仕方なかった。
呪われる前から、呪われてからも。
頬にある痣や、ほそく弱々しい躯。
ぜんぶぜんぶ嫌いで憎くて投げ出したい。
恵まれたのはお金を稼ぐのに必要な能力。
僕には幻術しかなかった。
死のう、と思う。
この薬を飲めば、あとは眠るだけ。
簡単にとても楽に、本当に眠るように徐々に死にいけるのだ。
死んだことすら気づかないほど自然に。
そんな魔法のような薬。
飲めなかった。
薬と、コップ1杯の水を用意したのに。
ベッドの横のチェストに水7分目のコップと薬を置いた。
「マーモン」
呼ばれた気がした。
後ろを向いても誰もいなかった。
僕の部屋だから当たり前だ。
後ろ髪を引かれるのは明らかに、明瞭に、確実に、絶対に、彼のせいなのだ。
毎日、色の無かった僕の世界に無断で、土足で上がり込んで、カラフルに鮮やかに色を染めるのだ。
その色は毎日違っていて、僕の日常という大きな石だけを入れた隙間だらけのカップに、砂を流し入れるように、空いた隙間を埋めるように満たしていく。
つまり面倒な言い回しをしたけれど
簡単に言えば、彼のせいなのだ。
そしてそんな彼に惹かれる自分のせいで。
明日はどんな表情で笑うのだろうとか
どんな顔を僕に見せてくれるのだろうと、
想像したら、手が止まるのだ。
きっとそれは僕の期待通りにきらきらとしていて
そのせいで僕は今日も死ねない。
人を殺す職業の、死にたがりな僕を
この世に留めるのは彼の存在だけだ。
彼に生きる理由を押し付けて
エゴイストな僕は今日も死ねない。
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