こぽこぽと、水が沸騰する音がする。
部屋に備え付けられた簡易キッチンに、赤いケトルがピーーッと甲高い音を鳴る。
僕は丸テーブルに、読んでた本を置いて椅子から立ち上がった。
キッチンに少し焦るように早足で行き、火を止めた。
お気に入りのマグカップにお湯と蜂蜜、レモン果汁を入れて、ティースプーンでくるくると混ぜ合わせる。
ふんわりと甘い香りが鼻腔を擽る。
早く飲みたい、大好きなレモネード。
蜂蜜で少しとろりとしていて、少し甘めのレモネード。きらきらと表面が光って見えて、ああもう待ち遠しい。
マグカップを持って、もう気分はるんるんだ。
ルッスーリアからこの前貰ったヴァニラキプフェルを用意して、冷める前に、早く早く。

さっきの丸テーブルではなく、ローテーブルにマグカップと、ヴァニラキプフェルを置いて、ふかふかのソファーに座って、さあ頂きます。

「はあ〜癒される…」
「しし、嬉しそーじゃんマーモン」

僕がレモネードとお菓子を用意するまでソファーに寝転がってスマホを弄っていたベルが起き上がって、僕の用意したマグカップに手を伸ばす。
僕の部屋にしょっちゅうベルは来る。
すでに彼の日用品が僕の部屋を少しずつ侵食しつつあり、今彼が掴むマグカップも彼のものだ。
うま、と一口飲んで呟く彼を見て、僕は思わず少し微笑んだ。

「まあね、至福の時っていうのはこういう事を言うのさ」
「うしし、まあたしかに?」

ベルがマグカップをテーブルに置いて、
僕の手に手を重ねた。
僕の顔を覗き込んで満足げに笑うベル。
手を絡ませあい、指と指を交互に絡めて恋人つなぎをして、そのまま僕はまたレモネードを1口飲んだ。

「おいしいけど、今日のレモネードは少し蜂蜜を入れすぎたかもしれないね」
「そお?王子はこれくらい甘くていい」

そう言ってまたベルは、ししし、と独特のチェシャ猫のように愛嬌のある笑みを浮かべる。
ベルはヴァニラキプフェルを1つ手に取り口に入れる。
ごくん、と飲み込んで

「やっぱ、甘すぎかもな」
「でしょ?」
「つぎは、王子がマーモンの甘いレモネードに合う苦目のお菓子用意してやるよ」

ビターチョコとかがいいよなー
と、スマホで検索しだすベル。
こことかどう?とか言って僕にディスプレイを見せる。
自然と距離がまた近くなった。
繋いだままの手に少し力が加えられたのに気付いた。

「一緒に買いに行こーぜ」
「そうだね。でも次の休みね」

今日はこうして部屋にいたいよ、と僕が言うとベルはスマホを無造作に投げ出していきなり僕に覆いかぶさって、
僕は雪崩るようにソファーに埋もれた。
上にベルが乗っかって重さと、ベルの体温が身体を包んだ。

「王子もこうしてたい」

そう言って軽快なリップ音を鳴らして、簡単なキスを交わす。
温かい、のどかな午後が優しく僕とベルを包んだ。
それはたしかに、幸せな時間だった。
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