非7³線が、身体を蝕んでるのが分かる。
身体が軋む、動きづらい。
いつものように浮くことさえしんどいけれど、歩くのもしんどい。立っているのもやっとである。

「マーモン、大丈夫?」

普段人の心配などさらさらしないヴァリアーも、さすがに僕の体調の異変には気を使っているようで、任務も激減し、殆どを自室のベッドの上で過ごすようになった。
ベッドの側に置いたミニテーブルに飲み物だけおいて、必要最低限立たない歩かない。
窓は開けられない。
よって換気もできず、ひたすら性能の良い空気清浄機を回していた。
むしろ空気清浄機がないと噎せ返りそうだ。
外からやって来たベルはおそらくスクアーロに言われて様子見に来たのだろう。
しかし日に日に悪化する体調。
とてもじゃないが良い報告はできないだろう。
ベッドの脇に座ったベルが、僕の頭をそっと撫でた。
少し冷たい手が心地よい。

「明日、ここを出るよ」
「え?なんで?」

ベルは驚いたように、その体調で?と続ける。
僕は縦に首を振って、肯定する。

「アルコバレーノで集まることになった。この非7³線を放出しているのは、おそらくミルフィオーレ」

そのことについての話し合いさ、と言うとベルが無茶だろと止める。
10年ばかりですっかり少年から青年へと成長したベルは弟のような、家族のような存在だった。
わずか8歳で入隊した彼のお目付け役だった僕は、いつの間にか彼の成長を喜ぶようになっていた。

「君と話すのも今日が最後かもしれないね」

なんだか少し悲しくなった。
ベルはというと僕と同じ気持ちになってくれているのかは、わからないけれど。
普段前髪で瞳が見えない割には感情が読み取りやすい彼だが、いまではあまり分からない。

「泣いてるのかい?」
「泣いてねーよ」
「君は嘘が下手だよ昔っから。のくせにすぐ悪戯してバレるんだ。」
「いつの話しだよ」
「今でも悪戯ばっかりするくせに良く言うよ」

いつも通りの軽い会話すら、物寂しく愛おしく感じた。
ベルが入隊したてのころ、まだほんの子供だった。本当に。
8歳とは思えない才能と残虐さ。
ベルは昔から飛び抜けた暗殺者としての才能を秘めてはいたが、普段の彼は年相応だった。
思い通りにならなかったら拗ねるし、
スクアーロに怒られて泣くことだってあった。
昔はしょっちゅう隠れて泣いていた。
僕をめいいっぱい抱きしめて。
怒られて、ゲンコツ食らわされた、痛いって言って。

「マーモン」

ベルが昔みたいに、僕を抱きあげた。
最近じゃ抱き上げられることも少ない。
ベルの口は固く閉ざされてて、何か言いたげだ。

「君らしくない。いつも笑ってるのがベルじゃないか」
「たまにはこんな王子もありだろ?」
「そうだね」

ベルがいつものように特徴的な笑みを漏らす。
釣られて僕も笑った。

これが僕とベルが過ごす最後の時間になるだろう。
おそらく僕たちアルコバレーノの会合なんてとっくにミルフィオーレにバレている。
死ぬのは嫌だけど、そうも言っている場合ではない。
戦わなくては、何も変わらない。変えられないのだから。

「帰ってくるよな」
「君が大人になったらね」
「マーモンの中じゃ俺はまだガキのまんまかよってか赤ん坊に言われたかねー」

ベルが僕を再びベッドに寝かせて、本当の赤ん坊にするように優しく僕の額に軽くキスをした。
おやすみ、と言ってベルが部屋を後にする。
残された僕は、キスの魔法にでもかかったかのように眠りについた。

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