ラン…オランダ


1861年、イタリア王国が建国されて今日で155年ーー
人間にとっては長いかもしれないが、俺にとっては瞬きのように一瞬だった。
一応王国建国である3月17日が俺と弟の誕生日のようになり毎年各国が祝ってくれるようになったが、国である俺は生まれてからの殆どの年月を誕生日がなく生きていたので何となく誕生日というのはむず痒い。
家を出ると「おめでとう」と近所のやつらに言われたりプレゼントを貰ったりする。
今日はわざわざ国を集めたパーティまでするらしいので、一応のスーツ姿。

「男前になってまあ」
とか
「いいべべ着ちゃって!今日はパーティかい!」
とか言っては頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。

イタリアといえば、スーツのイメージはあると思うが、北と南でスーツ事情も違う。
産業盛んな北は機械を用いているが、南は完全オーダーメイドで手作りが多い。
俺もお気に入りの店があって、毎年1着作ってもらってるし代々の店主とも仲がいい。
小さな店だが腕は確かで今日だってそこのスーツを着ている。不思議なもので、少し背筋が伸びた。

「兄ちゃ〜ん!行くよ〜!」

弟が車を回してきた。
パーティは首都ローマで行われることになっていた。

「兄ちゃんかっこいいよ」
「当たり前だこのやろー」

155年経っても弟とは仲が良いとは言えない。
ずっと弟に劣等感を抱いて生きてきたからだと思う。
何でも持っている弟がずっと羨ましかった。

「みんなが祝ってくれるって嬉しいね。俺統一して良かったって思うよ」
「けっ!どーだか」
「本当だよ!」

弟は運転しながらチラッと俺を見た。
イタリアの道路は酷く交通整理が出来ていないので目を離した隙に他の車とぶつかりそうになる。
あわわわ、と弟は慌てながらハンドルを切った。

「俺ね、ずっと兄ちゃんが羨ましかった」

穏やかな声色で弟が呟いた。
カチンときた。
何だってできて、何だって持ってて、出来損ないの俺とは全然違う賢い弟が、俺を羨ましいというのだ。
ひどく腹が立った。

「俺のどこがいーんだよ!何もねえよ俺には!産業も貿易も絵も昔っから何でもお前の方が上手で周りにちやほや持て囃されてるお前に俺の何が良いって言うんだよ!」

抑えられず怒鳴ってしまった。
俺と弟だけの車内は、シーンと静まり返った。

「俺には何もないよ。うまく出来ても、みんな俺じゃない。俺の後ろにあるものに寄ってきてた。だから俺いっつも周りに人がいても孤独でひとりぼっちだった。
だからさ、トーニョ兄ちゃんと本当の家族みたいな兄ちゃんが羨ましい。兄ちゃんのために必死になってくれる人がいるのが、すっごく羨ましかった。ローデリヒさんにはお世話になったし優しかったけど、兄ちゃんとトーニョ兄ちゃんみたいな関係にはなれなかった。俺、兄ちゃんと統一して、ルートとか、菊と出会うまでずっと寂しかった。兄ちゃんと統一して一緒に暮らせるのが、すっげー嬉しかったんだよ」

弟が話し終えたその時、ちょうどパーティ会場に着いた。
駐車場に立つ警備員と弟が少し話しをしてから、また車が動く。沈黙が続いた。
俺は知らなかった。
弟が孤独であったことを、だって何でも持ってたように見えたから。ずっと羨望していたから。たぶん、俺は弟のことをちゃんと見てなかった。向き合うこともなかった。弟はこんなにも手を差し伸べてくれていたのに。
駐車場に車を止め、車を降りても俺たちは会話することなかった。
会場に着いて、既に到着していた国たちが沢山の祝福の言葉をくれた。

「ロヴィ!久しぶりやなあ〜ほんま会いたかったで」
「ロヴィーノちゃん何やまた大きなりはった?」

暗い顔を上げると、アントーニョとベル、そしてランが集まってきた。

「ん」

ランは俺に、すっとチューリップの花束という珍しいものをくれた。珍しく今日は煙草に火が点いていた。

「うちとなあ、お兄ちゃんで作ってんで〜でもチューリップやからすぐダメになっちゃったらごめんなあ」
「いや、その、あ、ありがとう」
「どういたしまして」

見ると3人とも笑っていた。
こいつらに囲まれるのはいつだって心地良い。
長く4人一緒に暮らしていた。ランとベルは途中で独立しちゃってトーニョと2人になったけど、4人で過ごした時間は楽しかった、んだとおもう。
弟が羨むものがこの温かさというのなら、弟は確かに昔持っていなかったものかもしれない。

「大事にする。チューリップ…」
「どうしたん?今日元気ないなあロヴィ」

トーニョが俺の顔を覗き込んだ。
肩をポンポンと叩かれる。昔と変わらない大きくて、農業のせいで少しカサついた手。
よくこの手に撫でられながら寝てたっけ。

「え!どしたんロヴィ!?どっか痛いん?」
「は…?」

ぽろぽろと、急に涙が出てきて止まらなかった。
わからない、何でだろう。でも悲しくなくて、涙は温かった。
トーニョに連れられて俺はパーティ会場の外に出た。
外の空気を吸って、深呼吸した。
少し心が落ち着いた。トーニョはずっと肩をポンポンと優しく子供をあやすように叩いてくれた。

「何かあったん?」

トーニョの優しい声色に一度引っ込んだ涙が、またポロポロ溢れ出した。
俺は今日あったこと、全部話した。
話してる間も涙は止まらなくて、何言ってるかも自分でよくわからなかったけど、でもトーニョは頷いてずっと聞いてくれてた。こいつ、こんなに優しかったっけって思いながら、俺は全部話した。
大したことじゃないかもしれない。
でも、声に出すと少し楽だった。

「ロヴィは俺のこと家族やと思ってくれてんやなあ。親分嬉しいわ。もちろん俺もロヴィのこと家族やと思ってんで。」
「でも、弟は、フェリシアーノは、」
「なあ、いまからでもええやん。フェリシアーノちゃんと向き合ってみ?家族になるのなんかな、いつからでも出来るんやで。せっかくお爺ちゃんが遺してくれた大事な弟なんやろ?大事に思ってるんやろ?」
「うん」
「なら大丈夫。さ、涙拭いて!パーティ会場戻ろ」

俺はトーニョに連れられて会場に戻った。

「あ、兄ちゃん!どこ行ってたの〜」
「悪い」

に、兄ちゃんが謝った!ってわざとらしく言って笑うフェリシアーノに俺は、うるせえって言ってチョップした。
痛いって言うフェリシアーノを見て俺が笑うと、フェリシアーノは頭を押さえながら笑った。

少しだけ、距離が縮まった気がした。






← →
back


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -