長い長い戦いの時代だった。
ずっとずっと戦場に生きた。
いまになっては肩を組み酒を交わす中でも、
数世紀前は戦場で本気で殺しあってた。
腹を探り合い、領地を取り合い、国民を犠牲にして血を浴び続けた。
飢餓に叫ぶ女子供。妻子と生き別れを決意して涙を流す兵士。散々厳しい訓練に泣き出す奴もたくさんいた。銃を手にし、敵国民を殺しあう。
そんな、俺の日常。

それが、いまはなんだろう。
銃を持つことが日常でなくなった。
血を見るのが異常な光景になった。
だれが、明日自分が死ぬと思って毎日を過ごしているのだろうか。
柔らかいソファーにこうして、ゆっくり座って、ただなにも考えず、ぼーっと過ごす。
台所から食欲をそそる匂いが漂ってきて鼻腔をくすぐる。

「飯だぞ、このやろー」

台所から顔を出した恋人の優しい顔に、幸せだと感じる。
昔の俺には想像もつかない。
一度だけいまの恋人に、『目が優しくなった』と言われたことがあった。
人を睨み殺せそうだと言われてたあの頃の面影はもう無いという。
四人掛けのテーブルに向かい合わせに座って、恋人のつくったパスタを食べる。

「うまいだろ」
「料理だけはさすがだぜー」
「うっせ」

たわいのない、いつもとなんら変わらない会話をして、食べ終わったら俺が食器を洗って、片付けが済んだらまたリビングのソファーで座って、映画を観る。
1時間もしないうちに恋人が眠りに落ちる。
肩に寄り添うように身体を預けて眠る恋人の頭にキスを落とした。

なんて、幸せなんだろう。

時々怖くなる。
この幸せはいつまで続くのかと。
国だった俺。
もう亡国である。
文化は死ぬことはなく今もなお受け継がれているからなのか、なぜまだこの世に留まることができるのかは判らないが、確実に身体に異変はあった。
恋人はきっと俺がいなくなったら、びーびー鼻水垂らして泣くだろう。
そんな姿は見たく無いな。

「お前は死なねえよ」

ぎゅ、と掌をにぎられた。
横を見ると恋人が目をうっすら開けてこっちを見ていた。

「眠いんだろ、寝ててもいーぜ」
「お前は死なねえよ、ぜったい」

俺の心を見透かすように、美しい緑の瞳が俺を真っ直ぐ見つめた。
昔と変わら無い、緑の瞳で。

「おぼえてるか。初めて会った日」
「忘れられるわけねーぜ」
「おれ、お前に祈りを捧げただろ。」
「ああ。」


何世紀も前、恋人、ロヴィーノの国に訪れたことがある。
お互いまだまだチビだった。
俺よりは少しデカいロヴィーノは、俺を見て言った。

「ひょろいなお前」

当時のロヴィーノを神聖視していた俺はその一言に随分落ち込んだものだ。

「ドイツ騎士団に神のご加護があらんことを」

突然、ロヴィーノはそう言って俺の首にかかっている十字架にキスを落とした。

「俺の捧げた祈りは、まだ続いてるんだぞ。お前は神様に愛されてる、俺にも愛されてる。だからお前はくたばったりなんか、消えたりなんかしねーよ」

あれ以来何世紀にもわたって大事に肌身離さず身につけている十字架。
さすがに何度か新しいのに変えたが。
ロヴィーノは体勢を変えて、俺に向き合って座った。

「プロイセンに、神のご加護があらんことを」

そう言ってロヴィーノはまた俺の十字架にキスを落とす。
いつも憎まれ口を叩く口が緩やかな弧を描いた。
優しい笑みを浮かべたロヴィーノ。
こんな顔、何年ぶりに見たことか。

「誓うぜ。お前を置いて消えたりはしねー」
「当たり前だ、このやろー」

そんなことしたら一生呪うからな、と物騒なことを吐いたロヴィーノは満足げに笑っていた。

← →
back


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -