基山さんが私をみてるみてるみてる。でもあれは基山さんじゃない。誰か別の人に違いない。だって基山さんはもっと…もっとなんだろう?でもとにかく私を見つめてる基山さんは基山さんじゃない。基山さんの振りした別の人だ。
「セックスしよう」
基山さんが私を抱きしめた。そうして私のいたるところに唇を落とした。どうしたの基山さん。貴女はこんなことする人じゃないよ。貴女は体を求める人じゃないでしょう。私は落とされる唇の甘さに耐えながら思う。そう基山さんは別の基山さんなんだ。あれは私の知ってる基山さんじゃない。でも基山さんは私をみてるみつめてる。彼女は私をベッドに押し倒すと服を剥ぎだした。涼しい空気が私を包む。夜の冷たさに体は強ばる。基山さんは私をみてる。
「本当にするの」
私はもう下着しか身に付けていなかったし、別に身を重ねることが嫌なわけじゃなかった。基山さんが嫌いなわけでもない。基山さんには違和感こそ覚えるが彼女は立派に基山さんそのものなのだ。こちらを見ているのは基山さんそのもの。これは基山さんだし昨日見たのも基山さん。目の前の彼女は何時ものように美人の基山さんだった。
「やっぱりやめるよ」
基山さんはそう言うと私の下着にかけていた手を引っ込めた。セックスを止めた基山さんは下着のままの私に毛布をかけるとそのまま寝てしまった。面倒だから私も下着姿のまま寝た。

目を開けたら真っ暗だったからびっくりして横を向いたら隣にはちゃんと基山さんの紅い髪があったから安心した。体を動かせば毛布の感触もした。ただ暗闇に目が慣れていないだけだ。安堵の息を洩らす。
「基山さん、起きてる?」
まさかそんなことないだろうと思いつつ、独り言のように喋った。
「うん。起きてる」
だから基山さんがそう言った時は驚いた。えっと漏らして彼女を見れば暗闇の中に緑の目が爛々と輝いていた。基山さんが私をみてる。
「怖い夢をみたの」
そう言って彼女は薄く笑った。暗さも手伝って彼女の笑顔は日中のとは違っていたが確かにそれは笑顔だった。彼女の笑顔は脆い。
「よく覚えてないけど、怖かった」
「そう。ならはやく忘れて、もう一度寝なよ」
「がんばる。風丸さんは」
「なんか目が覚めただけ」
「そっか」
そして私たちはもう一度目を瞑った。私は眠りに落ちたが、基山さんがどうだかは知らない。

朝モーニング・コーヒーを飲んでいる彼女にまた違和感を感じた。彼女は誰だ。本当に基山さんなのか。一番最近見た基山さんは確か目の前の彼女のようではなかった。彼女は朝の爽やかな雰囲気でいるが違う。基山さんはもっと幽々として白く細いのだ。(しかしながら私はその彼女にも場合によっては疑を挟みたくなるのもよく分かっていた)
「おはよう、風丸さん」
「ああ、おはよう」
違う。彼女は基山さんであるが基山さんではない。何かが違うが私には分からない。何が違うのだ。分からない。しかし基山さんは私をみてる。
「コーヒー、よく飲めるね」
「慣れたら美味しいよ」
そのとき私はふっと気付いた。私は私を絶対だと思っていたが違うのだ。私も数々の私に分裂している。私のなかの私が私をみてるみてるみてるみてる。
お前は誰だ。

(ウタカタ)

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