包丁を入れるとあの独特の香りが強くしました。そして目がヒリヒリして開けてるのが辛くなりました。それを我慢して手を動かせば、視界が涙で歪み、危なくて微塵切りなんて出来なくなりました。だけどそれでも微塵切りを続ければ「痛っ」指を切りました。赤い筋が一本、左中指の爪の下に出来ました。仕方がないので微塵切りを中断して絆創膏を取り出しました。消毒液も出すとそれで患部をふいて(ヒリリとしました)、絆創膏を貼りました。
手当てが終わったその時にインターホンがなりました。いけない。風丸さんにオニオンスープを作って待ってるって言ったのに。時計を見れば約束の時刻でした。スープは出来てませんが、仕方ないので玄関に行きました。「来たよ」ドアを開ければコートの風丸さんがいました。「寒いよね。早く入って」「ありがと。おじゃましまーす」
まだスープが出来てないと素直に言ったら「うん。ミスする日もあるよ。出来るの待ってるから」と風丸さんは言ってくれました。彼女は優しいのです。
ところで、実を言えば私はもっと早くに料理を作り始めることは可能でしたし、玉ねぎを泣かずに切る方法も知っていました。ではどうしてそうせず、指まで切ってしまったかというと、全て理由は風丸さんにあります。私は風丸さんに私を心配して欲しいのです。優しい性格故に女も男も関係無しに平等に接する彼女に、他人より多く構って欲しいのです。それだけです。実際、彼女は私の涙の跡も、指の怪我も心配してくれました。涙の跡に触れて、「大丈夫?」素敵な優越感を感じました。これだから、やめられない。
素早く残りの玉ねぎを切ると鍋に入れて煮ました。「あともう少しだから」「わかった。じゃあテーブルの準備手伝うよ」私は風丸さんにテーブルを拭くのと、スプーンを並べるのを頼みました。鍋を見つめながらも、私はやはり優越感に浸りました。
スープが出来たので、それを皿についで、やっと食事になりました。私の独占欲が溶けたスープを飲んで風丸さんは言いました。「美味しいね。さすがヒロトだ」私はまた素敵な優越感に襲われました。「どういたしまして。遅くなってごめんね」私は風丸さんを欺いているという事実に胸が高鳴るのを感じました。風丸さんは何も知らない。私がどういう思いで貴女と関わっているか知らない。これは私にとってのアヘンでした。気付かれないように私は彼女を汚すのです。素敵な麻薬遊び。私は既に中毒なのです。


(CHINESE SOUP)

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