ヒロトと風丸

あまりに白くて逆に不健康と言いたくなる人差し指が空中に差し出された。それが空気のなかを真っ直ぐに進むとそこには密度の変化が起こり僅かな風が起きた。彼の指先は確実にその風の動きを感じたはずだが、それは全く無視してよい程度のものなので、それが意識に上がっただろうとは考えられない。指先はまだ進む。あそこに目的のものがある。太陽光に当たり虹色に光っている。ゆったりと空気のなかを漂う丸いシャボン玉に彼の指は真っ直ぐに近付くとそれに触れた。パチリといって石鹸の玉は割れた。その破裂音は確かに鳴っているはずだがあまりに小さな音なので、彼はそれが無音で消え失せたと思っているに違いない。しかしそれはどうでもいいことだ。彼にとって大切なのは触れたら割れるという知覚出来うる事実だ。実際、確かに彼はシャボン玉が割れるという事象に嬉々としている。しかしそれすら人によっては意識しないのだから、彼は鋭利な感性を持っていると言うべきではないかと俺は思う。
何処かに幼なさを忘れて今まで生きてしまった基山ヒロト。人は彼の行動を奇異の目で見るがそれは違うんだ。彼は今までなくしていた物を取り返している最中なんだ。

「風丸君、割れたね」
「うん」
「おもしろいね」
「…そうだな」


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-何で俺が君を好きになったかってね、
Lサイズのポテトを食べていたヒロトが喋りだした。
-君が玲名に似ているからさ。
俺はその玲名という人物を知らなかったが、適当にふうんとうなづいておいた。それよりも今の俺には具の沢山入ったハンバーガーをいかに上手く食べるかの方が重要だった。
-俺は玲名が好きだったんだ。でも玲名は俺が嫌いだった。だから俺は報われないはずったんだよね。
ヒロトは頬杖を付きながらポテトを食べている。のんびりと柔らかいジャガイモの油で揚げたものを噛んでいた。
-玲名は俺を嫌いなはずだったんだよ。でもね、違った。告白したらね、玲名も好きだって、言ったんだ。その時、俺気付いたんだ。俺は俺を嫌いな玲名が好きなんだって。俺を好きな玲名に俺は幻滅してしまうんだ、ってね。
ヒロトは親指と人差し指を合わせて、指についた塩を落とした。俺はまだ悪戦苦闘している。
-考えたんだよ、理由。そうしたら、俺が無条件で愛してもらえなかったことが原因じゃないかって思ったんだよね。父さんは俺に俺じゃない誰か重ねることで俺を愛した。俺はそういう愛しか知らないんだよ。だから、
べとりとハンバーガーのソースが垂れた。俺は落ちたソースに溜め息をついた。
-だから、俺は玲名を君に写して君を愛するんだ。ごめんね。
俺はまたふうんと言った。別にいいじゃないか、それでも確かに彼は俺を好きでいてくれてるんだから。そして俺もそんな彼が好きなんだから。別にそんな愛でもいいじゃないか。
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