「えっ…と…アフロディ」
緑川は右上に目を泳がせて、左手を唇につけて、目の前の人物の名前を思い出す素振りをした。
別に特別なにか話したいわけではない。ただ街中で会ってしまったから。適当に短い会話をして「じゃあ、また」と形式上の挨拶をして、別れるべきだと思っての動作であった。
「うん。君は緑川君…だよね?」
自分は金髪の彼の名前がおぼろげだったのに(あのバーンとガゼルと組んでいた奴なのに、だ)、彼は名前を覚えていてくれたことに緑川は驚いてしまった。
「よく覚えてるね!」
「だって君、髪の色と名前が一緒だから覚えやすくて」
「ああ、よく言われるよ!」
アフロディがふふふとくすぐったそうに笑い、緑川はあははと乾いたような笑いをした。この間が続くように緑川は1つ気になったことをたずねることにした。
「ねえ、アフロディってさ、君の本当の名前?」
「いいや?本名は亜風炉照美というよ」
「ふうん。面白いね」
「まあ、君達の宇宙人ネームみたいなものだよ」
「ああ…」
掘り起こしたくない過去だ、と思った。しかし今の会話からするとアフロディもとい亜風炉照美も同じことを感じてるのではないだろうか。
「ね、緑川君」
「なに?」
「これからは、名前で呼んでおくれよ」
控えめな笑みを見せながらのアフロディの頼みに、緑川は「勿論!」と答えた。自分がこの金髪の綺麗な人と仲良くなれたようで、緑川は少し嬉しかった。
(バーンとガゼルには負けないよ!なーんてね)