上っておいでよ。

と照美が夜空に突き出している、塗装された金属の階段から身を乗り出して俺に声をかける。照美は普通のビルなら7階、俺は6階と呼ばれるだろう所に立っている。7階。落ちたらきっと即死だ。

上がってるさ。でもお前も俺を待ってくれよ!

俺が上を向いて答えると(正直少し怖い)照美がくすくす笑った。そして言った。

やだよ。風丸君。僕に追いついておくれよ。

照美は長い髪を手で後ろにやったかと思うと、また上へ上へと駆け上がっていった。おい待てよ!
俺が照美のいた階に着くと彼はその一つ上に。俺がまた一つ上に上ると彼はそのまたもう一つ上に上がった。トントントンとリズム良く階段を駆ける度に音がする。照美の足音も。
どれだけ上がっても照美は上へと駆け上がる。階段は何処までも続く。いい加減肌を差す冷えた空気が痛くなってきた。夜風が俺と照美の髪を揺らす。トントントンという音だけが響く。
まだ照美には追い付かない。
もし、俺が此処で上るのを止めたらどうするんだろう。照美はそのままてっぺんまで駆けていくんだろうか。それとも俺を追いかけて階段を降りはじめるのだろうか。もしそうなら逆の鬼ごっこの始まりだ。まあ、そんなことはないのだろうけど。照美はきっと一人でてっぺんまで行くんだ。
気付いたら空がだいぶ白んできていた。薄赤い東雲の雲が見える。もう夜は明けかけている。
疲れている体を持ち上げてまた俺は階段を上りはじめた。3つほど階を上がった。そして次の曲がり角を曲がって上に上がろうとしたところに、なんと照美が立っていた。本当に曲がって直ぐの所に立っていたから俺は立ち止まれず、彼の胸元に飛び込んでしまった。どさっ。

やあ。お疲れのようだね?

そりゃな。

少し憎たらしく答えてみたら彼はくすくす笑った。今俺はこいつに抱き締められているから、その声がくすぐったくて仕方がない。

ねえ風丸君。

なに。

今このまま二人で飛び降りない?

な…。とだけ発して俺は固まった。今俺は抱き締められている。逃げられない。照美なら自殺くらいやりかねない気がして、怖くなって彼の赤い目をみた。そしたら照美は目を細めて、

嘘。

と言った。俺はその答えに酷く脱力してしまって、なんだよ。心配するじゃないか。と呟いてから全体重を照美に乗っけた。照美は少しよろけたかと思うと、そのまま階段に座ってしまった。

ごめんよ。つまらない冗談を言って。それより、見て。

と言って照美が左を指差す。夜が開けていた。

太陽。大きいよね。

東の空は一面が紅く染まり、中でも太陽は一際紅く燃えていた。
空が、街が、ふるびた階段が、照美が、俺が、朝の光を浴びている。眩しい。俺は目を細める。
照美が俺を抱き締める力がさっきより強くなった。彼の腕に包まれながら俺は、今なら一緒に死んでもいいかなって考えた。
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