容姿がよくて。運動神経がよくて。性格がよくて。そんなやつらが、
「羨ましいな」
そう言ったら、
「ああ、豪炎寺君のこと?」

彼凄いよね、と吹雪は鞄を漁りながら言った。がさごそ。彼は自販機でさっき買っておいたジュースを探してるようだ。
風丸はそれを、壁に寄り掛かって座りながらぼんやり見ていた。
「ちがう。俺の周りの皆。」
あった!と言うと吹雪は鞄から明るいオレンジのペット・ボトルを取り出した。小振りの、数百円で買えるやつ。そしてそれを持ったまま顔を少し風丸の方に向ける。すると数度瞬きをして、
「ああ、風丸君の一般人コン・プレックスか」
と呟いた。しかしすぐに顔を前に戻すと、彼はその買ってきたペット・ボトルのオレンジ・ジュースの蓋を開けた。プシュッ。吹雪はオレンジ・ジュースを飲み始めた。
「悪かったな。お前みたいな高尚な悩みでなくて」
「何?僕の高尚な悩みって」
「人格問題」
吹雪は口をペット・ボトルから離すと、ああ、と言った。
「でも、風丸君だって辛いんでしょ。なら別の問題でも然程変わらないと思うけど。だって主観的な話で、どっちも苦しいんだし」
「そーかな」
「そうだよ。それに陸上からサッカーに転向して日本代表だよ?凄いじゃない」
風丸は吹雪の方を少し見つめるとまた、そーかなと呟いた。うつ向いて、床に視線をやった。前髪が顔に影を作った。
「…飛鷹は今までやってこなかった。虎丸は小学生だ」
「だから?」
「才能って羨ましいな」
「馬鹿だね、君」
吹雪は風丸を一瞥すると、面白くなさそうに続けた。
「努力に優るものは無いんだろ?そうだったよね?」
風丸はじっと空を見つめている。あれは考えているように見えて、何も考えていない顔だ。吹雪は思った。脳が考えるのを停止したんだ。理由はきっと現実の拒否、否定。
「だといいのにな」
ほら。予想通りの答えが返ってきた。
はあ。吹雪は小さく溜め息を吐いた。彼は何をしにこの部屋に来たのだろうか。さっぱり分からない。しかし仕方がないので、きっと意味はないだろうと思いながらも、言葉を選びながらの風丸との会話らしきものを続けることにした。
「でもさあ、風丸君はポジション的に結果が見えづらいだけじゃない?」
「きっと違う」
「はあ。あっそ。じゃあさあ、考え方を変えたら?確かに技術では上がいるけど、風丸君には他にも良いとこあるでしょ」
「なに」
「人格が優れてるよ、面倒見良いし」
「ふーん」
吹雪の言葉を風丸はなんだそんなことか、と鼻で笑って返した。
「結局俺は皆を励ましたりするしかできないんだ。いや、それすら出来てないかな」
そう言うと風丸は駄目だなあと自身を嘲笑った。
吹雪は冷めた目で風丸を見ると、もう一度はあと溜め息を吐いた。飲みかけのペット・ボトルは手に持ったままだ。
「…結局君は僕になんて言って欲しいの。僕、大方君を慰める言葉はかけたんだけど」
吹雪が面倒くさそうに風丸を見ると、彼は顔を歪めて微笑んだ。器用だなと思った。自らへの憎しみを込めて笑うなんて、狂気の沙汰だ。
「さあ。知らない。きっと才能の塊みたいなお前を見て、ちょっと言いたくなっただけだ」
「あっそ」
「俺、多分できるやつ皆嫌いだと思う」
「へえ」
それはまた凄いことを言うね。と吹雪が言ったら、風丸は、ああそーだな。だから俺はお前も嫌いだ。と答えた。
本当になにしに来たんだこいつ。普通なら文句の一つでも言うところだ。しかし吹雪には風丸に抗議をするなんて面倒な事をする気はさらさら起きなかった。だから飲みかけのペット・ボトルに口を付け、残りを飲み干すことにした。ごくり。ジュースはゆっくりと吹雪の喉を通っていった。
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