どうして嫌いになれないのだろう。









(ベーコンレタス/種が運ぶ命/アスラン×レイ/アスラン腹黒/現パロ/高校生/性表現/女装)



優しくて頭が良くてかっこいいアスラン。レイはそんなアスランを尊敬して憧れて、いつのまにか恋をしていた。
だけどアスランの本性は強かで狡賢くて女癖が悪くて、人を人とも思っていないような思いやりのない男だった。
レイにそのことを知られて、それをきっかけにレイの気持ちを利用しておもちゃにするアスラン。
悲しくて悲しくて、辛いのに逆らえないレイ。



(気に入らない後輩だと思っていたのに。
どうしてこれ以上ないくらい胸が焦がれるんだろう。)


アスラン・ザラの女癖の悪さは、その名と共に校内に知れ渡ってる。抱いた女は数知れず。しかしその下品な噂が信じられなくなるくらい、彼は誠実そうで爽やかな外見をしていた。その上、頭脳明晰、スポーツ万能、極め付けに世界有数の資産家の一人息子といえば、女が放っておくわけがない。だから常に女の方から寄ってくる。それに嫉妬する男もいるが、アスランは腕っぷしが強かった。喧嘩で挑んでも大抵の男は返り打ちにあう。そうならなくても、陰ながらアスランを護衛しているボディーガードが彼のその身に危害が及ぶ前に助ける。


ああ、どうして嫌いになれないのだろう。

手首を強く締め付けるアスランの手に、レイはとっさに捕まれている腕を引いた。しかし締め付ける手は解けなかった。ただ手は繋がったまま、アスランは立ち止まってレイを振り返った。振り返ったアスランの表情を一目見ただけで怒っているのがわかった。でも何故怒っているのかわからなくて、レイは萎縮して反射的に俯いた。鋭い視線をひどく感じたが、怖くて顔を上げられなかった。
「そんなに楽しかったか」
高圧的な声がレイに降り掛かった。一瞬何のことだかわからなかったが、さっきシンと一緒にいたことことだと察しがついた。というか、それ以外に思いつかなかった。シンと会う直前、自分はアスランと一緒にいたのだから。




文化祭
レイのクラスが模擬店のコスプレ喫茶。

慣れないヒールのせいで床を踏み外し、体勢を立て直せなかった。スローモーションのような一瞬で足首をぐにゃりと捻り、一瞬全身に力を入れることができなくなった。転ぶ、と堅く目を瞑り、ぎゅっと全身を強ばらせた。床に打ち付けられる衝撃を待つが、数秒経ってもそれがやってくることはなかった。やがて落ちる感覚がないことに気付き、触覚が戻ってきて、目を開ける。自分の身体はアスランに抱き留められていた。見上げると、咄嗟に出てしまったような無防備な表情が、俺を見下ろしている。
「大丈夫か?」
その優しい声色が、何故だか懐かしくて、俺は身動き出来なかった。アスランの本性を知る前に彼に抱いていた感情が一時的に甦ったのだと、時間が経ってから気付いた。
ああ。
俺が女に生まれてきたら、アスランは俺に優しくしてくれたんだな。
「…平気です。ありがとうございます」
立ち上がる。俺の身体を支えてくれている手が、腕が離れるのを見る。少し前まで感じていただろう、名残惜しさや安堵感はもう今は湧いてこなかった。
アスランへの気持ちがいつのまにか無くなってしまったことに、俺は気付いてしまった。



「俺のことが好きなんだろう?」
頬にある手が撫でるように動く。ぞわりとした気持ち悪さがそこから発進した。俺は顔を逸らす。耐え切れずに目は固く閉じて、貴方のことは好きじゃないと言った。俺は動かず、アスランも触れてこない。一瞬空気の時間が止まったのがわかった。だけどすぐに指先が俺の首に触れる。
ただ身体に這う手に、体の奥から言いようのない熱が込み上げてくる。爪先や局部の神経が、張り詰めている。
時折アスランの左手が俺の胸を触る。柔らかくもない、起った乳首だけがある平らな胸を揉んでくる。

愛してるなんて、嘘だ。
どうせ本気の言葉じゃないんだろう。今まで何人にも言ってきたんだろう。
そんな言葉を、信じられるわけがない。
俺の知らないところで、俺の知らない奴に、俺の知らない貴方で、俺と同じ言葉を言っているんだろう。
なんで、好きになってしまったんだろう。
貴方を好きになってこんなに苦しいなら、好きになりたくなかった。