どこから来ましたか。







(♂主/忍卵/五年/記憶喪失?)



(あれ?)
目が覚めると見慣れているはずの天井。だけど何故か新鮮に見えた。

ここはどこだ。

意識は疑問だけを抱いているが、身体は自分の日常を覚えているらしい。何をしなければならないかを自然に動く身体は教えてくれた。

まずは着替える。見慣れないはずの衣類だが、やはり着方は知っていた。部屋を出ると外が見える。縁側と呼ばれるところに出たようだ。
歩く。同じように部屋から出てきた俺と同じ服を着ている同い年くらいの少年たちが歩いていく方向に従って進む。知ってる顔なんてもちろんいない。

「○!」

それが誰の名前なのか認識する前に、反射的に振り返っていた。そこには長い黒髪の少年がいて俺に笑顔を向けてこちらに駆けてくる。そうか、俺の名前は○というのか。
記憶をいくら探っても今朝以前を思い出せない俺にとって彼は初対面なはずなのだが、彼は親しい間柄なのだと勝手に動いた口が教えてくれた。

「おはよう兵助」





時間が経つにつれて、身体が俺の意思だけに従うようになってきた。少し困った。俺は感覚だけでしかここでの過ごし方を知らないのだ。頭がぼぅっとしている間に、身体が勝手に的確な言動や反応をしている不思議な現象に助けられたのに、今はそれができない。本当に困った。

ここが忍者の勉強をする場所だとはわかった。
授業で実技の勉強をしても、最初何をすればいいのかわからずうまくいかなくても、何をするべきかを理解すれば二度目以降は見違えるほどの動きになった。俺は優秀な生徒らしい。

座学も何を言っているのか辛うじてわかる。ただ頭はこの世界の認識と常識とこの授業内容への理解で同時稼働させているので、必死にならないとすぐ忘れてしまいそうだ。

知らない奴に話し掛けられた時が一番困る。自力で名前を思い出せたのは兵助だけで、あとは他の奴らが呼び合ってるのを聞いて思い出すしかない。
知らないわけではないらしい。もやもやした頭が名前を知った途端にすっきりするから、ただ思い出せないだけのようだ。この感覚はデジャブに似てる。
そして夢を見ている感覚に似ている。

昨日以前のことはまったくわからない。これは思い出せないというよりわからないと言ったほうが正しいかもしれない。
なんとなく、俺はここで今朝目が覚める前、もしかしたら違う場所にいたのかもしれないと思うが、定かではない。それもわからないのだ。