ナルシスノワール






(♀夢/英雄学/爆豪勝己/notヒーロー志望/パラレル/三角関係/百合/勝己に義姉がいる)



爆豪操
ーー勝己の義姉。爆豪家の養子。容姿端麗。
(※元々は綾吊操という名前で、勝己と面識のない◎の親友という名目で作ったモブキャラ)

●◎
ーー操の友人。高校にて出会う。入学した日のうちに趣味を通じて操と親しくなった。

爆豪勝己
ーー操の義弟。爆豪家の実子。


ーーー


操が勝己の義姉。

幼少期に操の両親が他界し、爆豪家の養子となる。操と勝己の仲は険悪。操は粗暴な勝己を厭い、勝己は操の人形じみた美貌と操を崇拝する彼女の周囲に気味悪さを感じる。操は親とコミュニケーションを取るけれど、自分が実子ではないことに引け目がある。居場所がどこにもないと感じている。



操は中学まで友人と呼べるものはいなかった。高校に入学して◎と出会い、初めて他人と打ち解ける操。操と◎は小中学校の学区は離れているものの同じ市内に住んでおり、やがてお互いの家を行き来する仲になる。その際に勝己は◎と出会う。

勝己が帰宅した時、◎は爆豪家のキッチンで戸棚を漁っていた。

「誰だテメェ!」

「きゃっ」

◎は驚いて勝己を見る。しかし戸棚を漁っていることに対して動揺はしていなかった。

「操ちゃんの友達です」

「友達ぃ……?」

勝己は操を崇拝するあまり操の所持品を盗むという取り巻きがいたことを覚えていたので、もしかしたら不法侵入したのかもという疑いの目で◎を見る。

「あいつにダチなんているかよ」

「私はそのつもりよ?」

「人ンちの台所で何してんだコラ」

「戸棚から好きなお菓子選んでほしいって言われたから、操の好きなものがどれか悩んでたの」

「……あいつは」

「映画見る準備してくれてる。プロジェクターを出すって言ってたわ」


木製の菓子皿を出す。


「好きなもんくらいあんだろ。選べや」

「……じゃあ遠慮なく」

女はストックの多いクッキーと、賞味期限を確かめて今日から日付が近いラスクをあるだけ取った。

「弟くんよね?」

「……ああ」

「操はいつも何食べるの?」

「知るかよ。いちいち見ねーわ」

「ふぅん。じゃあ貴方はどれが好き? 先に取ってどうぞ」

「別に待ってるわけじゃねぇ」

「あら、そうなの? じゃあ私は見張られてるわけね」

「人ンち棚漁ってる奴を無視するわけねーだろ」

「そうかもね」

ポップコーンを二袋取り出し、勝己と並べて見比べ

「んだよ!」

「どっちが好きかなって」

「顔見てわかるわけねぇだろ!」

「甘いのよりしょっぱいのが好きそうね」

「勝手に決めてんじゃねー!」

「あらハズレ? キャラメルの方が好き?」

「ーーうるさい」

勝己が答える前に、凛とした声が二人の会話を止めた。二人が声に反応すると、開いたドアの側には怪訝な顔をした操が立っている。いつのまにか二階から降りてきたらしい。

「ごめん。上まで聞こえた?」

「◎のことじゃないわ。お菓子、好きなのあった?」

勝己が去っていく。勝己が見えなくなるまで睨む操。


「ごめんね、嫌な思いさせて。いつももっと遅く帰ってくるのに、なんで今日はいるのかしら」

「大丈夫よ。聞いてたより親切だったわ」

「親切?」

「お菓子選びに迷ってたら、好きなもの選んでいいって」

「ふうん……?」



それから度々、勝己は自宅で操に招かれている◎の姿を見た。

勝己は操の交友関係に興味はなかったが、◎がいることで初めて操のポジティブな感情を目の当たりにする。◎がいる間だけ義姉へのとっつきにくさが和らぐ。操から勝己の悪評を聞いているであろうにも拘らず勝己への嫌悪感を見せない◎に、調和的な存在だと感じる。






勝己が◎に惹かれていくのを自覚したある時。
◎と操がキスしているのをドアの隙間から見てしまう。



それが触れがたく美しいものに見えて、長く思えた時間、凝視していた。

勝己に気づいた◎は、操の体を抱きしめた。口元に人差し指を立てて、『ナイショ』とアイコンタクトを送った。勝己は逃げた。どうしていいのかわからないまま、動悸だけが耳に響いて、キスしている二人と、◎の細められた瞳が何度も瞼の裏でリフレインした。
その後、顔を合わせた◎は何食わぬ顔で、いつもの通り勝己に接した。操とのキスを勝己に口止めしたのも、扉越しのジェスチャーだけだった。


以来、勝己は◎のことをよく思い出した。頭から離れてることの方が少なかった。


あのキスを見る前から、そんなことはよくしていたのに、旅行先の土産を勝己宛に買ってくるのも、顔を合わせれば話しかけてくるのも、何か意図があるものではないかと考えるようになった。何か自分に対して特別な合図なのではないかと。
勝己が二人の仲を口外しないための情を持たせる目的かもしれないし、単純に勝己の気を引くためかもしれない。とにかく、自分に対する◎の逐一の言動を、勝己はモブの雑音として流すことができなくなった。

勝己の態度の変化は操にもわかった。◎と対する時の勝己は棘が落ちる。操にとっていいことではなかった。◎が恋仲として操と勝己を天秤にかけた時に、男である勝己が有利であることは自問するまでもないのだ。



「◎に変な気を持たないでよ。◎があんたに優しいのは、私の弟だからよ」

「……うるせぇよ」


弟だから。
◎のことを頭に浮かべるたびに、その言葉が同時に巡った。操の言うことの方が正しくて、自分の感覚が麻痺しているのは勝己にもわかっていた。

操に指摘されるほど自分の感情が揺らされている。それは勝己の恥であり、屈辱でもあった。断ち切るべきだと理解しているのに、夜毎に◎のことを想っては身を焦がす。◎のことが嫌いになるほどに、鮮烈な恋に焼かれた。


◎の想像をするのは安らかだった。
そしてその安らかさを幾重に重ねようとも打ち消せないほどに代え難く、苦しかった。







「勝己くん、最近は操と仲悪くなさそうね」

二人になったタイミングで、◎が勝己に言う。

「前も今も大して変わんねえわ」

「あら、そう? 初めて会った時はお互い会話するのも嫌みたいに見えたけど」

「あの女と話すのはアンタ絡みの時だけだ」

「私の話? ふうん、どんな?」

「あいつ経由で土産寄越したりしてんだろうが」

「そうね。……あ、迷惑だった?」

「……別に」

「そう。よかった。私、勝己くんのこと好きだもの」

動揺して持っていた飲み物を落とす勝己。足元が汚れる。◎が膝をつきハンカチで濡れたズボンを拭くと、勝己は顔を真っ赤にして怒鳴った。


「触んな!!」


混乱して勝己は逃げた。◎の顔も見なかった。












最終的に◎は勝己と結婚するけど、目的は世間体に臆面なく操と家族になること。操と家族の縁で一生繋がるために勝己を利用している。だけど勝己のこともちゃんと好きだし大切に思っている。二人のことを大事にしたい。

操は自分を選ばず、自分が嫌いな勝己と絆を深める◎に苦しむ。自分だけのものだったのに義弟に取られた気分。
勝己は自分を愛している◎を理解しつつも、それ以上に操を愛している◎を苦々しく思う。形式的には全てを手に入れてるはずなのに、◎の内訳は全てが勝己に向いているわけではない。

二人がどれだけ◎を恨んでも憎んでも、◎が二人に対して、おそらく別の愛情ながらも慈愛を向けてくれている。それを理解しているから、憎み切ることができない。

操と勝己は◎に同等に愛されている。

釈然としないメリーバッドエンドのような何か。