ごっこ遊びの婚約者
(♀夢/英雄学/爆豪勝己/notヒーロー志望/パラレル)
いつから一緒にいたのか覚えていない。一番古い記憶にはもう既に刻まれていた。そして、他人と対すれば自然とできるはずの心の壁もない。だからなんとなく、きっとこの生涯を閉じる時にもこの人とは一緒にいるのだろうと信じていたし、そうあるべきだとも思っていた。
「見て見て。きれいにできた」
出来上がったシロツメクサの花冠を頭に載せて、◎は勝己を向いた。この場に付き合いつつも退屈そうにしている勝己は◎を見やる。自分を放置して黙々と花を編んでいた◎がやっと口を開いたことに、自分の忍耐タイムがやっと終わったのだと溜息をついた。よくできた白と緑の環状線に、至極興味なさそうに吐き捨てる。
「ンなもんすぐ萎れちまうだろが」
せっかく作ったものに対してあんまりな態度だ。達成感に水をさされたが、◎は特に気分を害さなかった。慣れているのだ。勝己が花冠に興味を持つなんて思っていないし、この完成度を褒めるとも思っていない。でも無視しないことはわかっている。勝己の反応はある意味期待通りだった。
「勝己って風情がないわね。勝己の分も作ったのよ」
「いらねえよ」
「手貸して」
「人の話聞けや!」
男が花冠なんて冗談じゃない。そう思い渋っていたが、◎の手には花冠がない。嫌々、渋々といった態度を隠さず、勝己は◎に近い方の左手を上げた。柔らかい手がそれを取り、勝己の手のひらを救い上げるように掴むと、薬指にシロツメクサの指輪を通した。
「ほら、お揃い」
◎も左手を上げて、同じように作った指輪を勝己に見せる。どちらも器用に作られている。しかし指輪をする習慣のない勝己にとっては違和感があったし、茎の厚みで指を閉じれないし、力一杯遊んだら解けそうだと思った。
「邪魔くせえ」
「だって私の指には大きかったんだもの」
「てことはコレ失敗作かよ」
「うん」
「うんじゃねえよ死ね」
「でも勝己と一生一緒にいたいとは思ってるわよ」
恥も照れもない告白は口から出まかせに聞こえた。だが◎が勝己に嘘をつくのはエイプリルフールだけだ。恋愛感情はないかもしれないけれど、本心であることはわかる。
しかし、所詮は花である。永遠の愛を誓うには頼りなく、明日になれば萎れて朽ちるだろう。その程度の短命さでは誓いも立てられない。それで婚約指輪とは笑わせる。実際勝己は鼻で笑った。
「花の指輪ごときでそんなん思われても嬉しくねえわ」
「花の命限りのフィアンセなんてロマンチックじゃない」
「頭ん中にまで花咲かせてんじゃねえよ」
「ふ、なにそれ。風情はないけど口は上手いわね」
勝己の返しに噴き出し、◎はその言葉を頭の中で繰り返し再生しながら笑った。笑わせるつもりで言ったのではないが、楽しそうに笑っているのを咎める気にはならなかった。ただ少し、こちらまで少し浮き足立ってしまいそうだったので、それを誤魔化すために勝己は◎の頭を軽く押した。
「なに笑ってんだよ」
「だって面白いんだもの」
気に入ったのか、◎はしばらくするとまた思い出して笑みを溢し、その後も機嫌よくしていた。笑いのツボの浅い奴だと思いつつ、勝己も◎の機嫌につられて気分が良くなる。何気ないことで◎が笑ったり、彼女の論調に茶々を入れることは好きだ。余計なことを考えずにいられて、落ち着いた。
花の命限りなんて真っ平だ。そんな短命なもので自分たちを繋ごうなど、浅ましいにも程がある。
自分たちはずっと、今のような束の間を繰り返すべきなのだ。花が朽ちた後も。枯れ葉と雪解けが通り過ぎて新しく芽吹いた後も。