君のヒーロープロセスと蛇足の私。14
(爆豪勝己/進路)
間が悪かったとでも言おうか。
◎の父である●里穹の執筆が一段落したのと、母である都呼が二ヶ月ぶりに帰宅したのが重なって、家族水入らずで外食することになった。しかも今年◎が受験生であることに気を遣った都呼は、来年まで仕事を休むことにしたと言う。そのことを◎も里穹も初めて聞いたが、言っていたつもりの都呼はそのことに驚いて慌てていた。
家族水入らず。ならば勝己との不和を知らせるのはよくない。◎は勝己に拒絶されたことも苛立ちをぶつけたことも言わず、爆豪家とつつがなく暮らしているように話した。ヘドロ事件のことを両親は知っていたが、「怪我もないみたいでよかった」程度の話で終わった。昼間光己から話を聞いて、心配する必要がないと思っているようだった。
勝己と話さないまま二週間が過ぎた。その間に◎は、自分の志望校をどうするのか考えた。
正直行きたいところのイメージはない。きっとどこに行っても同じような人がいる。◎には、勝己やクラスメイトたちのように明確な夢があるわけでもない。模試結果ではA判定だが、特筆して雄英を志望する理由もない。
勝己と喧嘩別れしている状態は後味が悪いが、自分のことを冷静に考えるにはいい時間だった。
果たして、いつまでも勝己と同じ方向に進んでいいのだろうか。
そう考えるのは喧嘩別れしているからこそかもしれない。
禄聖女学校を知ったのは、進路相談で成績に見合う偏差値の学校を教えられたからだった。幼稚園から短大までのエスカレーター式の女学校で、遠方から入学する場合は入寮も可能という。
それを聞いたときは浮世離れした学校に思えて全く行く気がなかったが、学校案内のパンフレットを見て気が変わった。禄聖女学校にはヒーロー科がなかった。
◎はこれまでヒーローに全く興味がない同級生に会ったことがない。同じ関心を持てないことは小さい疎外感に繋がった。そして疎外感はどこか息苦しい。物心ついた頃からそんなことが当たり前だったからコンプレックスというわけでもないが、同士がいるかもしれないことには単純に興味が惹かれた。
その学校に進学しようか考えたのはそれがきっかけだった。心が大きく傾いたのは学校内の設備を見てからだ。その学校を調べると校舎とは別に敷地内に図書館が設置されてあり、その蔵書数は地区図書館を優に超えるということがわかった。図書室通いをしている◎にとって蔵書数が多いというのはかなり魅力だった。おまけに屋上は解放されていて、学食は美味しく、校舎は立て替えたばかりで、園芸部が育てているバラが温室で手入れされていて、中庭には洒落たガゼボがあり、制服も可愛い。これまで部活動に入っていなかったが、禄聖には文芸部もあるらしい。調べれば調べるほど興味が湧いた。
「禄聖に行こうかな……」
そう口にしながら、頭の中ではもう禄聖に行くことを決めていて、それ以外の学校は霞みきっていた。
それでもぽつりと頭の中で、決して、勝己と同じ学校に行きたくないから雄英を除外したのではないと言い訳をした。
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