femme fatale-ファムファタル-
(♀夢/英雄学/爆豪勝己/notヒーロー志望/片恋/主の性格が悪い)
勝己が◎に恋する話。
自分が恋心を抱いたのだから、当然◎も同じ感情を抱くと思って中学の時に告白したが、◎は勝己を兄妹としか見れない。自分に恋愛感情を抱く勝己に気持ち悪いと思う。
「自分が告白された時はクソ下らねーなんて言ってたのに、勝己は私のことが恋愛対象として好きなんでしょう?」
「どういう気持ちで私といたの」
「私、勝己のこと好きだったのよ。勝己も同じだと思ってたのに」
「不純な気持ちで私のこと見ないで。気持ち悪い」
それまで戯れでキスしたことがあったが、勝己は肉欲でキスしていたのかと思うと軽蔑しか抱けなかった。
勝己は◎の気持ちを取り戻したくて、しばらくした後「あんなん本気なわけねえだろ。別に何とも思ってねえわ」と言い張る。◎は半信半疑だったが、勝己の恋愛感情に対しては受け入れがたく思っているものの、兄妹としては勝己のことを好いていたので言葉の上では勝己のことを信じた。
だけど時々、勝己が自分を意識しているのを感じることができた。前だったら意識しなかったのに、触れそうになった手にビクとして手を引いたり、目を逸らしたり、逆に熱っぽい目で見てきたり。
それを見て、時折◎は勝己を試すような真似をした。不意に手を握ったり、思わせぶりなことを言ったり。勝己が過剰に反応するのを見て、◎はすぐに離れる。
「勝己、まだ私のこと好きだったの?」
◎はそう勝己を嘲笑した。
「…だから、何とも思ってねえっつったろが」
自分から手を出したら◎に軽蔑されると思い、◎がどんなに挑発してきても勝己は◎に手を出さなかった。
◎にとって、勝己の受け入れがたい部分は自分へ向く恋愛感情だけだったから、その感情に関してのみ、他者に対するのと同じ無関心さを向けた。
ふうん、と表面上は納得した態度を見せる。しかし、そのうち勝己の恋を弄ぶようになった。
ある夏の日。
暑さに汗を流しながら歩いている時、◎が手の温度を下げて勝己の手を握る。
勝己が驚いて◎を見ると、◎は可笑しそうに笑った。
「ふふ、びっくりした? 暑そうにしてるんだもの」
「…別にびっくりしてねえよ」
「そう。気持ちいい?」
「ん」
勝己の顔が仄かに上気するのを見る。手遊びするように◎が指を絡めても勝己はされるがままだった。◎が手を撫でても、ピクと指が反応するだけ。握り返しもしない。ただ、夏の暑さを言い訳にしても手汗が多かった。
腕を絡めて、そのままぐいと引く。勝己の上半身が傾き、何事かと◎を見た勝己の唇に、◎は唇を重ねた。表面が触れるだけの、なんなら目指した場所を外して勝己の唇の端にしか当たらなかったキス。それでも勝己は動揺した。激しく。一瞬で体内が沸騰したように熱くなった。
引き寄せられた腕に触れる胸の感触。触れている手はこんなに小さかったか。何故◎から香るだけで髪の香りが胸を掴む。何故、瞬きの隙ほどに触れた唇が、肌を痺れさせる。
◎は冷ややかな目でそれを見上げた。静かに唇を離すと同時に、勝己の手からするりと逃げる。
「ふふ、おかしい」
楽しげに笑いながら、◎は数歩先に進み、くるりと勝己を振り返った。その顔には嘲笑が浮かんでいる。
「勝己、まだ私のこと好きだったの?」
勝己は赤面し、その己を否定するかのように顔を歪ませていた。歯を食いしばり、悔しそうな顔。唇の感触にいつまでも意識が向いていた。
体に◎の余韻が残っていた。
*
勝己の恋を弄んでるうちに、勝己からの好意に慣れていって、まだ抵抗はあるものの軽蔑は薄れていく。勝己に恋されてることに無意識に依存しはじめている。
「勝己はまだ私のこと好きなの?」
勝己は答えなかった。
「私に触れたい?」
ドッと胸が跳ねる。目線を動かさないまでも、◎の胸や、腕や脚を想像した。頬が熱くなる。ぐっと奥歯を噛んだ。
◎は聞き慣れた声でふふ、と笑った。嘲笑だった。
「好きよ、勝己」
不意に、勝己に唇を奪われる。ぱち、と瞠目していると腰を抱き寄せられ背中を撫でられた。撫で方がいやらしくてカッと顔が熱くなる。驚いて顔を逸らすと、背中を撫でた手がうなじから髪を掻き上げて頭を固定する。
「やっ…」
唇が塞がれる。ぬるりとした舌の感触が口の中に入り込んで、気持ち悪さと混乱で涙が出てきた。背筋がゾクゾクする。開いた口から◎の苦しげな声が漏れて、甘い喘ぎのように勝己の耳に響いた。
「……お前、虚仮にすんのも大概にしろよ」
「俺が、もうねえっつってんだろが」
「……もうないのに、こんなことするの?兄妹みたいに育った相手に」
「てめぇが煽るからだろ」
「そう…。キスなんてただのお遊びだもんね」
「……」
悔しそうな、それでも熱のある目を勝己は向けた。◎は不快を浮かべていた。思い通りにならなかった勝己を突き放すような目だった。
思えば、初めてキスをした時から◎に傾いていった気がする。あまりにも当然に受け入れるから。
「今のキス、もう一回していいわよ」
息が漏れる。口の間から響くくぐもった声が、甘く、まるで自分を求めているように感じる。
「好きよ、勝己」
囁くようなその声は、兄妹のように育った相手に、こんな時に言うものなのか。
(どういう意味だよ、クソ)
熱が昂る。
愛しくて、恋しくて、苦しくて、この腕から離したくない。
たとえ◎が軽蔑しても、どこにも行かないのならそれでもよかった。
◎が誰かに告白される。
「好きな人がいるんですか」
「うん」
反射的に勝己のことが浮かんだ。
自分から勝己への好意は、恋とも呼べるかもしれないと思う。
(散々、勝己のこと軽蔑したり弄んだりしておいて、今更私も好きだなんて言えないわ)
触れて、勝己が勃起しているのに気付く。
体を触れるあたりでは(まだ背中とか腰しか触ってなくて、胸や局部は触れていない)、◎は勝己とのキスに嫌悪感はなく、気持ちいいと思い始めている。キス友みたいな感じ。
「…したいの?」
「……うるせぇ」
「別にいいけど、勝己がしたいなら」
「……、しねぇよ。おめーは俺に惚れてるわけじゃねえだろ」
「てめぇが半端なまんま、進みたくねんだよ。わかれやそんくれぇ」
「……ねえ勝己」
「あ?」
「恋ってどんな気持ち?」
「あッ…?」
「私、初恋まだだもの。知らないの」
「…お前、俺に惚れてんのかよ」
「知らない。でも勝己のことは好きよ」
(続くかもしれない)