十傑パロ。成り上がり勝己と奴隷娼婦notヒーロー志望。番外
(♀夢/英雄学/爆豪勝己/「十傑パロ」の番外/notヒーロー志望/個性あり。ただし本編より威力弱め)
101【番外】蛍
102【番外2】風邪
103【番外3】虫
104【番外4】ドラゴン
105【番外5】娼婦教育時代
106【番外6】蚊帳の外から見た二人
101【番外】蛍
蛍。
夜、外に出ろと言われてついていく。ドラゴンに乗って勝己に抱えられる。
「掴まってろ。落ちても拾わねえ」
「うん」
飛ぶ。
温かい季節に差し掛かっているのに、上空は寒い。◎は勝己の体に腕を回して、勝己の体が冷えないように自分の表皮の温度を上げた。勝己は行く先を見たまま◎を抱える腕の力を強める。
星空は地上よりも美しく輝いて見えて、◎はずっと星を見上げていた。月明かりが照らす森の向こうの地平線。広大な景色に胸が震えた。
きれい、と小さく零す。風の中で勝己はその声を聞いた。
降り立った場所は、森から切り立った崖の上だった。ドラゴンから降りて下っていく勝己についていく。森の木立で闇が深まると、勝己は◎の手を取り、掌から爆ぜる光で辺りを照らしながら先に進んだ。
道中、視界の端に何かが過った気がした。だがそちらを見ても爆ぜる光の外は闇ばかりで、何も捉えられなかった。
「どこに行くの?」
声は闇に吸い込まれるようで、少し怖い。
「黙って足動かせ」
答える声に少しほっとする。
やがて水の音が聞こえてきた。
勝己の掌から音と共に光がふっと消える。途端に広がる深い闇の中では、繋がった温かい手の温度だけが確かだった。
闇に視界が慣れた後、遠くで小さな光が過るのが見えた。一つ、二つと見えていたそれは視界に映る数を広げ、水の流れる音の中で、小さな淡い光が交錯するのを◎は見た。
蛍だった。
「あれ、なに?」
「蛍」
「蛍?」
「虫だ。今の時期しかいねぇ」
「死ぬの?」
「ああ」
横行する光。水の流れる音。日常からそこだけ切り取られたように、清らかさのみがここにある。◎は何故だが心が静かに吸い取られるように感じた。
悲しいとも、切ないとも違う。ただこの美しさに、体をなくすような、自分が空気や森にとけるような、自分が人であることを忘れるような感覚が広がる。
「きれいなのに」
この景色に溶けるように、その声はほとりと落ちた。
◎は繋がる勝己の手の感触が、この世で一番大事なものに思えた。
102【番外2】風邪
風邪。
水浸しでダンジョンから帰ってくる。ズボンとか靴の中とかまで全身ずぶ濡れ。帰ってきた時点でちょっと怠くなってた。
「…すごい、びしょ濡れ」
お風呂。例に漏れず背中を流させたりはしないが、風呂上がりに髪を乾かされるのは今日だけ抵抗しなかった。というか大人しかった。
「ご飯食べる?」
「おお」
その日は肉料理。明日は念のために消化にいいものを作ろうと思う。
翌日、怠そう。家にいると言う。朝食はお粥と細かく刻んだ野菜のスープ。
「うめえ」
ほうと吐く息に紛れた小さな声だったが聞こえた。勝己が自分からそう言うのは初めてだった。嬉しくなる。
食後、あとで部屋に水を持ってこいと言って部屋に戻る勝己。
洗い物の後、水差しとグラスを持って勝己の部屋に入る。勝己はベッドに横になってる。水を置いて出て行こうとしたが呼び止められる。
「こっち来い」
従うと、手を取られて掌を額に当てられる。触れた額は熱い。求められたことを察して掌の温度を下げると、勝己は気持ちよさそうに長く息を吐いて目を閉じた。個性を求められたのは初めてだったが、利用方法をあらかじめ知っていたかのように違和感のない動きだった。似た個性で、似たことをしたことがあるように思えた。
もういい、と手を離される。
出て行こうとしたら、再び声がかかった。
「そこにいろ」
声に強さはなかった。
ただ発した。そう聞こえた。
体を動かしたくないが意識はあるし寝てるだけは暇。
「お前、いつも何してんだ。一人でよ」
「掃除とか、洗濯とか」
「だけか」
「うん。あと、窓から景色見たり」
「…つまんね」
「そうよね」
家から出るなと言ったのは勝己なので、行動が限定されることはわかっていた。だが聞いてみれば気が狂いそうなほど暇を持て余しているとわかる。
「勝己はどんなところに行くの?」
「どことかねえわ。片っ端から強え奴がいるところに行くんだよ」
「勝己、強いものね」
「…てめぇ見たことねえだろ」
「あるよ。一番最初」
「…あー」
◎を買った日。
「あんなんガキの遊びだろ。戦ったうちに入んね」
「でも、私たちは勝てない人だった」
「は、クソ雑魚じゃねえか」
「うん」
勝己が自分を買った理由を思い出す。買われた当初は勝己の行動の理由が一つもわからなかったが、今思い返せば合点がいった。
『それ、ただオメーのこと助けたかったんじゃねえかな。知ってるやつに似てるって言ってたぜ』
勝己の中に残る、面影の人。
他の人はもう買われたのだろうか。
大抵は元締めのいる売春屋に買われると聞いた。代わりのきく商品だし、買われた先によっては客の常軌を逸した性癖で娼婦が殺されても、金さえ積めば元締めは口を閉ざす。処女ほど反応が新鮮で、それが付加価値となり値が上がる。
教えたことよりもおぞましいことが必ずあると、調教の際に密かに教えられた。お前を出すのは惜しいと頭を撫でられた。何も心に響かないまま、ありがとうございますと笑った。
だから勝己に買われた時、遠くない未来に自分は死ぬのだろうな、と思った。それなのに今も生きて、主人の額に手を置いて、優しい風が入る穏やかな場所にいる。女として男の肌に触れていたことが遠いことのように思える。時折、奴隷であることを忘れるほどに。恵まれすぎてそのうち天罰が下ってもおかしくないはずだが、今のところ今日までその予兆はない。
認めるのを躊躇うほど、勝己といるのは幸せだった。
「明日から」
勝己の声に思考から抜けて勝己を見る。
「いるもんはてめぇで街まで行って買ってこい」
「、え、なん」
「めんどくせぇからだよ。どうせ暇だろが」
当然のように言う勝己に◎は戸惑った。
奴隷は金の価値を知らない。自分の財産を持たないからだ。それに伴い、物の価値も知らない。売買される物品は奴隷よりも価値があるものとだけはわかっていたが。
金の使い方、買い物の仕方を◎は知らなかった。
「買い物、したことない」
「…つくづくめんどくせぇ女だなてめぇ」
はー、と溜息。恐縮する。
そもそも奴隷に買い物を任せる主人など聞いたことがないが、これまで勝己から奴隷として扱われたことがないから、自分の考え方を改めなければならないのだろうと◎は思った。
「明日教えたるわ」
103【番外3】虫
虫。
道中、遠くから悲鳴が聞こえた。女の悲鳴だった。
女はくだらねえことで声を上げやがる。本当にやべえ時は声が出なくなる。女に対してそう認識していた勝己はそれを無視していたが、家に近づくにつれ近くなるその声に帰路の足を早めた。
◎の声だった。泣き声が混じっている。
嫌な想像をした勝己はドアを勢いよく開けた。
◎、と言いかけて開いた口は、眼に映る情景に間抜けな声を出させた。
「…あ?」
「おっ、おかえり勝己…」
想像していたようなことはなく、◎は一人だった。椅子の上にしゃがみ込んで、高いところから何かを探すように自分の周りの床に目を這わす。
「何やってんだお前」
「…虫」
「虫だァ?」
「きゃあ!」
「!っだよ!」
「かっつ、勝己の足元にいる…!」
ちょっと大きい虫。
手掴みして外に放り出す。
はー。
「奴隷だったらこんなんそこらへんにいただろうが。見かけるたびに騒いでたんかてめぇは」
「…その時は平気だったんだけど」
「起きたら服の中にいたことがあって、それからダメなの、虫…。わさわさ動く足とか、ダメ」
「前はうまく隠せてたけど、久しぶりに見たから…ごめんなさい」
「別に隠さんでいいけどよ」
「あんなんで大騒ぎすんな。触ったところで死にゃしねえわ」
酷いことを言われたような絶望的な顔。
超小声。
「触れない…」
「ほうきでも使って掃き出せや。いちいち騒がれたらウゼェんだよ」
(何事かと思っただろうが、クソ)
104【番外4】ドラゴン
ドラゴン
まだ一人での外出が許可される前。◎が逃げないかドラゴンが家の横で見張ってる。
ドラゴンは普段、広いダンジョンとか荒野とかなら勝己と一緒に出掛けてたけど、行き先が狭い時は留守番したり空の散歩したり。家の横に常駐してるわけではない。ただし勝己が呼べば来る。
◎は暇すぎて興味深げにこそっとドアを開けてドラゴン見上げたりしてた。ドラゴンも◎の行動警戒してるから見つめ合う。◎が野良猫に触りに行く感じでそろりそろりと近付いてそっと触ったりしたり。ドラゴンもプライド高いけど、別に逃げるわけじゃないし「勝己が迎えてる奴だから触らせといてやるか」みたいなで寛容に大人しくしてる。
ドラゴンは巨体。皮膚は硬いし、火も吹く。空も飛ぶ。
「強そう」
ぽつりと零す。
このドラゴンが勝己に従えてるということは、勝己はこのドラゴンよりも強いのだろう。どうやって倒したのか想像もつかない。
地響きのような喉の鳴る音が響き、ビクと手を離す。
(…あんまり触ったら機嫌損ねるかしら。人懐こい生き物でもないだろうし)
そっと手を下ろして、家に戻る。
(ドラゴンと一緒にいるイラスト描きたい。)
105【番外5】娼婦教育時代
◎が勝己に買われる前の教育時代の話
いつか売られる未来。
純潔を失う、あるいは既に失っていること。今は見知らぬ何者かにいつかきっと殺されてしまうこと。
奴隷娼婦として、多くの者がそんな末路を迎える。まともな神経を持っている者ほど、避けられない未来に恐怖した。
こんな境遇であるにも関わらず、絶えず微笑み朗らかでいる◎に癒しを見る少女。後に奴隷商人が勝己に売ろうとした美しい少女である。
奴隷とはいえ、どれだけ虐げられても痛みや喪失は怖い。恐怖心を少しでも和らげたい一心で、◎に縋り、唇を、触れ合いを求めた。◎は平素と態度を変えず、美しい少女を受け入れて優しく睦みあった。それは少女にとって唯一の安堵の時だった。少女は◎に執心し、自分の立場に感じる恐れを◎で紛らわせた。
白磁のような肌に触れ美しい髪を撫でながら◎は、震える少女を見て淡白に思考する。
(避けられないからこそ、受け入れられるものだと思うけど)
…奴隷は郷愁の念が生まれないため例外なく記憶を消されるが、彼女には奴隷になる前の記憶の片鱗が残っているらしい。それが事実なのか、現実と混同するほどのリアルな想像なのかはわからない。
産まれる前に羊水の中にいたことにも似ている。忘れてしまった者には共感できない追想。それがあるからこそ、彼女は奴隷であることが怖いのだろう。
奴隷の前の記憶。
(私にもあるのかしら)
生来からの奴隷ではないのだからあるはずだが、記憶を馳せようとしても、ないものに対して追想はできない。両親、兄弟、友達。そんなものが自分にもあったのだろうか。そう考えたりもしたが、空想から現実的な実感に発展したことはなかった。
(知らないから、きっともう私にはないものなんだわ)
人間の営みから産まれたと言われるよりは、地面から沸いて出てきたのだと言われた方がよっぽど納得できる。この世の誰とも繋がりのない存在。それが自分だ。
自分に弱々しく縋り付く美しい少女に、記憶を失えなかったことはなんと哀れなのだろうと◎は思った。
市場への道中。突然現れた屈強な男が女を売れと言った。強引な武力行使をする男に、ひどく狼狽した商人は昨日まで◎と睦みあった美しい少女の腕を引いた。少女は悲鳴をあげて、いつもの縋る瞳で◎を見た。
「誰がてめぇに決めろっつった!ああ!?んなクソアマいらねえわ!!」
男は迷うことなくまっすぐ◎を見やり、来るように言った。しばし互いに目を見つめ、◎は言う通りに荷車から降りる。
少女は買われていく◎をただ見つめていた。「行かないで」と思いつつ声にできなかったのは、自分の立場を承知しているのもあったが、それよりも遥かに大きかったのは恐怖心だった。引き止めてしまえば、自分も連れていかれてしまうかもしれないのが怖かった。
彼女ならきっと、何処に行ってもいつもみたいな朗らかな態度で、怖いとも思わないで、きっと何も感じない。だから大丈夫。自分の行動に対する言い訳のように、少女はそう強く思って深く俯いた。自分の足元だけをじっと見ていた。
それが二人の最後になった。
「よろしくお願いいたします。どうぞ可愛がってください」
106【番外6】蚊帳の外から見た二人
爆豪派閥
「お、爆豪じゃんあれ」
「本当だ。おーい、爆…」
二人いた。
「…今声掛けたらキレっかな」
「まあ、ヤボ…うーん」
行っちゃう。
「…あの二人ってさぁ、恋人なんだよな。たぶん」
「たぶんな。一緒に住んでるし」
「はっきりそうだっては聞いたことねえけど、まあ、たぶん」
「なんか微妙なんだよな、あの二人」
距離感が。
「隣じゃねーんだよな。歩ってるのが」
「恋人って言うにはドライすぎるっつーかな」
「まー、いーじゃねーか。別に悪いことしてるワケじゃねえし」
「切島は気になんねえ?つーか何か話されたりしてねえ?」
「いやー、別にそういう話は」奴隷ってことは知ってるけど言わない
「そりゃそうか。切島に女の話してもな、縁なさそうだし」
「ちくしょう、何も言えねえ」
「ま、でも」
「両想いだろ。間違いなく」
瀬呂。
勝己に「こういうの好き?」って訊く◎を思い出す。幸せそうな表情。
(爆豪の話すると、すっげぇ幸せそうな顔すんだよなぁ)
「あー、俺も彼女ほしーわ」
*
「お」
「?」
「爆豪の…えーと」
「…◎です」
「◎な。今日爆豪は?」
「…」
「あ、もしかして俺わかんない?一応二、三回会ったことあるんだけど」
「すみません」
「あ、いやいや。俺、瀬呂な。瀬呂範太」
「瀬呂さん」
「そそ。まー、あいつはしょうゆ顔って呼ぶけど」
しょうゆ顔でやっとはっとなる。
「瀬呂さん。こんにちは。勝己に何かご用でしたか?」
「いや別に。見かけたから。買い物?」
「はい。夕飯の支度で」
「へー、しっかりしてんな」
「いえ」
「つーか、敬語なしでしいよ。俺、爆豪とタメだし」
「、うん」
(うん、だって。すげー素直。爆豪に爪の垢煎じて飲ませてー)
「それ持ってこか?」
「大丈夫」
「いーからいーから。こういうのは男に任せるもんよ?」
自分の荷物を渡す瀬呂。途中まで持ってってあげる。
勝己の話とか。
「まー、あいつ強えしなあ」とか話す
興味津々に聞く。
「すごいのね、勝己。見てみたいわ」
幸せそうな声音。
途中、勝己と会う。
「あ?」
「よっ」
「…なんでてめぇがいんだよ」
「何よ、俺いない方がよかった?」(なんか煽る)
「あア!?喧嘩売ってんのかしょうゆ顔コラ!!」
「まーまーまー怒んなって!重そうだったから運ぶの手伝ってあげただけだから!」
奪取
「これで用ねえだろ!とっとと失せろ!」
「はいはい」
「クソ◎!いつまで突っ立ってやがんだ!ちゃっちゃか歩けや!」
「持つわ」
「うっせぇ俺に手ェ貸そうとすんな!!」
(お?)
行こうとする二人を呼び止める
「爆豪、爆豪」
「っだよ!」
耳打ち
「いいとこ取っちゃったみたいでごめんな?」
「〜っ…シネ!!!!」
「っぶね!」
「妙なこと考えてんじゃねえ!殺すぞ!」
「ちょ!マジじゃん!」
(愛されてんなー)
(続くかもしれない)