notが幼馴染じゃなくてお互いに片思いしてたらif
(♀夢/英雄学/爆豪勝己/notヒーロー志望/中学時代/if/後半に若干軽めの性表現あり)
一度だけ、期末テストの順位が一番じゃなかったことがある。
二位という結果に、勝己は貼り出しを見てあんぐりと口を開けた。
「誰だこの●ってやつ」
「おい!」
「、はい」
「てめぇ言っとくが、雑魚が一回俺の成績追い抜いたからって調子こくんじゃねえぞ。次なんて」
ねえからな、と続けるはずの言葉は、ぱっと明るくなった○の表情に止まった。
「今回すごく頑張ったの。苦手な教科が一番点数よくて、びっくりした」
「前回ひどかったから前の爆豪くんの成績目指してたの。いつも一番ですごいって思ってたから。前の点数は追いつけなかったけど」
「…んなこと聞きてえ訳じゃねえんだよ」
「あ、ごめん。成績って自慢みたいに聞こえるから誰にも言えなくて、でもすごく嬉しかったから、つい。なんだっけ?」
「俺には自慢していいってか!」
「だって目標にしてた人からその話題来たら、話したくなるじゃない?すごい勉強しちゃった」
嬉しそう。
「爆豪くん、いつもすごいのね」
一番になったからこそ一番のすごさを実感して、純粋にすごいと思う。嫌味なく、超えたからこそすごさがわかる。
「てめぇ次のテストではぜってえ俺の下にさせっからな」
「…じゃあ、肩すかしにならないように次も頑張るわ」
「じゃあ、私図書室行くから」
「クソ。んだあの女。言いてえことばっか言って行きやがって」
爆豪くん、いつもすごいのね。
(当然だろ)
結果以外のプロセスも実感し認めた上で発せられたそれは、雑魚モブに賞賛されるより、やけに胸に残った。
もう一度その台詞を言わせたかった。
↑↑↑ここまでを小説にした話↑↑↑
→片思
(爆豪くんって、あの人だったのね)
万年一位の秀才だった故に、塾通いの生真面目な人で、朴訥とした外見をイメージしていた。且つ、「己に勝つ」という名前から、プライドが高く偏屈な人なのだろうと。◎の想像では、爆豪勝己とはひょろっとした痩せ型で色白で黒髪で眼鏡をかけて冗談が通じないタイプの、育ちの良いガチガチの真面目な男子だった。
想像と180度違っていたのが意外で、強く残ったインパクトは彼の本質を想像させた。
鉄壁の主席を守り続けている勤勉さ。派手な素行と言動は目立ちたがり屋だからなのだろうか。彼と対峙した短い時間の間で受けた印象を思い出す。制服は着崩していて、あまり模範生ではないようだった。本で読む不良の秀才は天才であることが多いが、彼もそうなのだろうか。運動会でも活躍していたし、その可能性は高いかもしれない。だとしたら面白い。そんな特異な人が同じ学校にいたなんて知らなかった。
爆豪勝己は目立つ。
*
◎は現実主義だが、日常生活を送る以上の現実には関心がない。
芸能人のゴシップとか、流行とか、学校の友人と旅行したりとか、お揃いのキーホルダーを持ったりとか、トイレで話に花を咲かせたりとか、そういったことには生まれてこの方興味が湧いたことがなかった。衣食住と行動範囲に支障が出なければ、交流など社交辞令で問題ない。浮かない程度に人間関係を築ければ、あとは本が読めればいい。読書は現実を生きながらも、別の人生を疑似体験できる有益な時間だ。◎は読書が好きだった。
文字を追うたびに空想が浮かぶ。風景、時間、人物、心情。人の意思が小説では緻密に描写される。それは現実では知り得ないことだ。
自分はそれを体験したことがないのに、物語は類似した心情を呼び起こされる。読書は享受だけの時間だ。自身の思考などない。それなのに、物語を読むと己の心に確かに湧く感情がある。小説がただの文字の羅列だからこそ、文章が伝える力は無限だと思えた。
本の中の非現実は、決して現実とは交錯しない。隔絶された完璧な世界。そんな風に思っていた。
が。
(やっぱりこの子のシーン読んでると爆豪くんが浮かぶなぁ)
◎が今ページを捲っている本は、読み進めていくうちに、度々そのように現実の思考と結びつけさせた。
◎は勝己のことをほぼ知らないので、登場人物と勝己に共通点が多いというよりは、同じ印象を受けることが多いと言った方が正しい。
潜在的に彼へそういう印象を持っているのだろう。その登場人物
本の中に、勝己の影を重ねるようになった。
あ。
「うん、勉強。ここ落ち着いてて好きなの。時々本読んだり」
「おめー英語毎度どっかしら単語抜けてんな」
「本当ね。なんでテスト中は気付かないのかしら。でも見て見て。国語は満点」
「はっ。俺のが満点多いわ。見やがれ」
「理科満点ってすごいわね。天体苦手なの…」
「天体なんざ実際星見りゃ覚えんだろ」
「そういうもの?オリオン座とカシオペア座くらいならわかるけど」
「山登りゃ星見やすいからそん時に覚えんだよ。夏と冬の大三角形も余裕で見れんぞ」
「ああ、山から見た空って綺麗みたいね。お母さんがよく写真撮るの。爆豪くんも山登るの?」
「おお」
「ふうん。いいわね」
「爆豪くん、雄英のヒーロー科志望なんでしょう?」
「たりめーだろ。それ以外選択肢ねえわ」
「応援してるわ」
「人の応援する余裕あんなら自分の心配しろや」
「そうね」
(俺と並んでんだから、筆記は余裕だろ)
そういえば、◎の個性はなんなのか知らない。雄英のヒーロー科に入学するには筆記と実技でボーダーラインを超えなければならないが、有利な個性なのだろうか。
実技で落ちても、別の学科にいる。だからたぶん、進学しても顔を見ることになるだろう。
学力があるならばよりいい学校に行くに決まっている。その中で雄英はトップで、志のある者ならその狭き門を潜ろうとするに違いないと信じていた。適当に生きてる奴が自分と対等になれるわけがないとも。
だから聞こうともしなかったのだ。◎の志望校なんて。
ヒーロー科の入試説明会に◎はいなかった。学校ごとに並ばせられているから、試験を受けるなら勝己か出久のどちらかの隣にいるはずだった。
(…なんだよ、ヒーロー科じゃねえんか、あいつ)
いつどこに目をやっても、雄英高校で◎の姿を見つけられたことは一度もなかった。
高校
連絡先知らねえ。
クラスちげえから同窓会も別だ。
あれが最後だったんか。
上鳴がナンパした相手が◎。後から勝己と切島くる。
「ねえ君、一人?」
「?」
「はい」
「ほんと?俺、友達待ってるんだけどさー、時間過ぎても全然来なくて退屈してんだ。よかったらお茶でもして待つの付き合ってくんないかな?」
あ、ナンパだこれ。
(初めてされた)
瞬時に思いつく限りの想定を並べた。ナンパに乗っかると小説の中では大抵、一目惚れだったり、デートの後に性行為が目的だったり、どこかに連れ込まれてレイプされたり、違法薬物やら幸福の壺やらのカモにされたり、女側が逆にナンパ男をトラブルに巻き込んだりのパターンをよく見る。
彼は見たところ年齢は同じくらいだし悪い人には見えないが、釣具となるナンパ師は好感を持たれやすい人でないと効果がないだろう。見た目はそうでも、腹の底は何を考えているか知れたものではない。
冷静に判断すると、ついて行かないのが賢い選択だが。
(この後どういうアプローチするのかしら)
そんな好奇心が浮かんだ。
行動権が奪われない内に別れれば問題ないだろう。ほんの少し、軽い火遊びをするつもりで彼のペースに乗っかることにした。
「いいですよ。私も人を待ってるから場所は移せないけど、それでもよければ」
「爆豪!早くしろって!」
「うるせぇ俺に命令すんじゃねー!無理矢理連れ出したくせに偉そうにすんなクソが!!」
「あ、なんだお前らもう来たの?」
「………」
「…こんにちは」
「どもッス!…ってー、どちらさん?」
「片瀬莎桐ちゃん。いま友達になったんだよな!お前らが遅いからさぁ」
「…片瀬ェ?」
勝己の怪訝な目に、どうしようかと困ったような微笑みが返った。それ以上嘘を吐くのを諦めた様子だった。
「世間って狭いわね」
上鳴と切島がきょとんと二人を見比べた。
「せっかくだし●の友達来たらみんなで行こーぜ!このまま別れちゃうのもったいないじゃん!せっかく仲良くなったし」
「……あ、ごめんね、待ち合わせって嘘なの」
「え?じゃあこの後映画行くっていうのは?一人で?」
「それも嘘。行かないわ」
「スイーツ食べて帰るってのは?」
「行かないわ」
「…あのさ、いっこ訊いていい?」
「うん」
「どんくらいが嘘?」
「ぜーんぶ」
マジシャンが何も仕込みがないのを見せるように、◎は胸の前で両手のひらを仰がせた。
「えー!?なんでー!?」
「だって素性が知れない初対面の人に赤裸々に本当のこと言えないわ。会話に支障なかったでしょう?」
「そりゃ確かに盛り上がったけどさぁ」
「ね、楽しかったわね」
「すげー楽しかった」
「どこかで見破られるんじゃないかってドキドキしてたわ」
イライラ
「おいアホ! てめぇ人のこと無理矢理呼び出しといてダラダラ喋ってんじゃねえよカス! お前も来んのか来ねえのかハッキリしろや!」
「なんかワリィ。悪ぃやつじゃねーんだけど」
「あ、うん、大丈夫。それはわかってるわ」
「お邪魔にならないなら」
「全ッ然!」
「爆豪くんの友達なら」と一緒にご飯食べに行く。
「おめー雄英じゃなかったんかよ」
「うん。禄聖女子」
「マジ!? じゃあお嬢様!?」
「そういう子もいるみたいだけど、私は普通の中流家庭。家にお手伝いさんもいないわ」
「へー。でも頭いいじゃんな」
「上鳴くんも雄英なんでしょ?頭の良さは私より上じゃない?」
「ザけんな。だったらこのアホが俺よりマシな頭ってことになんだろが」
「ってことは爆豪より頭いいのか?」
「ううん。追いつけたの一回だけ」
機転
「でも、久しぶりって感じしないわ。体育祭の中継とか、写真でも見てたし」
「写真? ああ、ヒーローマガジンの? 体育祭載ってるよな」
「そう。あと私のお母さんカメラマンで体育祭に撮影に行ったから、雑誌に載ってないものもたくさん見たわ。すごいのよ。何百枚って撮るの」
「じゃあお袋さん、一年の会場来てたんだな!」
「うん、今年の一年生、実習中に敵に襲われて話題になったからだって」
「やっぱ敵に襲われたってなるとどこも注目すんだなぁ」
「うるせぇ」
「でもみんなは無事でよかったわね」
「まあ、無事っちゃ無事だけど……結構ヒヤヒヤしたよ?」
「え、上鳴くん当事者なの?」
「え、うん。俺ら三人、雄英一年A組。知らないで話してた?」
「そうだったの……会ったことない人のことってそんなに興味なくて。大変だったのねぇ」
「なあなあ、ところで写真ってデータ? 何か持ってたりする?」
「今? ……氷の人のならあったかも」
「あー轟か……」
「んで半分野郎のなんか持ってんだよ」
「え、きれいだなって思って……この人もクラスメイト?」
「そう。やっぱ女子は轟に持っていかれんだなー……ツラいいもんな」
「でも、ヒーローって強い人の方がいいんじゃないの?」
「それも大事なんだけどさ、目立った方がその分覚えてもらえっからね。一位になっても締まらねーやつもいるし」
「んだそりゃ俺のことか!?」
「他にいねーだろ」
「あ、あった。一部だけど。私が好きって思ったものだけもらったの」
体育祭を見てて、母親が写真撮ってそれをたまに見るから身近な気でいたとか、写真見せる。すごくかっこよく撮れてる。戦闘。
「おおー!すげぇ!こんな瞬間あったのか!」
「あ、それ一番好き」
「でもこれいつだ?」
「さあ。でもグラウンド・ゼロって感じ」
爆煙。
「やべぇ閃光クソかっけぇ!爆豪なのに!」
「どういう意味だアホ面テメェ!」
「ねね、●!俺も写真撮られたりしてない?」
「さあ。あると思うけど。全部の写真の被写体は覚えてないから」
「放電してるやつあったらそれ俺!」
「ふうん。探しとく」
「あ、じゃあ連絡先交換しようぜ!」
ピク
「ごめんね、お母さんの仕事の写真だから渡せないの」
「見るだけでもいいよ」
「でも、初対面の人とは連絡先交換するの控えてて」
「マジかあ……俺は結構もう仲良いつもりなんだけどなー……」
「ごめんね」
「あっ! じゃあSNSは?」
返答に困る
「おいアホ。てめぇしつけえんだよウザってぇ。見たところでなんの足しにもならねえだろ」
「えーでもカメラマンが撮った写真見てーじゃんか」
「将来嫌ってほど撮られると思うわ。上鳴くんビジュアルいいし」
「マジ!? え? マジで? ●的に俺って好みな感じだったりする?」
「私の好みは置いといて、雰囲気が明るいから」
「だってよ爆豪!」
上鳴とばっか話してるのにもやもやしてたところに振られたので反応が少し遅れる。
「あ゛? んで俺に振んだよ」
「だってお前キレてばっかじゃん。明るい雰囲気、大事だってよ!」
「なんでこの俺がクソ雑魚共に愛想振りまかなきゃなんねんだよ!! てめぇと一緒にすんな殺すぞ!!」
「ほらーすぐキレるー」
「てめぇアホにアホなこと吹き込むんじゃねえ!!」
「思ったことしか言ってないわ」
ふふ、
「ところで話ちょっと戻るけど、●の好みってどんなんなん?」
「え」
「さっき好みは置いといてって話してたじゃん?」
「え……っと」
少し顔が赤くなる。
「…、さあ。あんまり考えたことないわ」
「じゃあ今まで好きになった男どんなんだった?」
「ええっと……、ちょっと待って」
目を伏せてもぐもぐしながら考える。「ん」と思いつく。
「博識な人かしら」
「ハクシキ?」
「色んなことをたくさん知ってる人」
「頭いいやつってことか?」
「うーん、頭がいいって言うより幅広く知ってる人。花や鳥を見れば種類や名前がわかるとか、どこのお店の何が美味しいとか、なんの本が面白いとか…引き出しが多い人って言えばいいのかな。あと発想力ある人は話してて楽しい」
「へー、なんか具体的だな。前好きになったやつがそんな感じの人だったん?」
「いや、お」
お父さん。
ファザコンなの知られるのちょっと恥ずかしい。
「お?」
「ううん、なんでもない。あと努力家な人は純粋に尊敬する」
やや早口で言った後、パクと口を塞いだ。
誤魔化し。
「みんなも話して。私だけ話してるの恥ずかしい」
「俺は同い年か年下だなー。リードしてあげたくなる感じの。ふわっとした子が好みかも。あーいやでも真面目そうな感じも好きなんだよなー。つーか年上も嫌いってわけじゃないし」
「なんだそりゃ。誰でもいいって感じか?」
「色んな女子に興味あんの俺は!いいだろ好みなんだから。爆豪は?」
「黙れ死ね」
「うーわー…すぐそういうこと言うもんなー。切島は?」
「やー、俺も好みのタイプとかよくわかんねえ」
「でも初恋くらいあんだろ?」
「初恋……あったっけかな。んー、ちょっと待て、思い出す。んー…
んーーーんんん。…。……。………。あーダメだわかんねぇ!ねえかも!」
「マジかよ。まーでも確かに経験少なそうだもんな、お前ら二人。そういう面はまだお子ちゃまっつーか」
「おい。何一括りにしてんだ殺すぞ」
「だってさー、爆豪なんてすぐ人のことモブとか雑魚とかクソとか言うし、人を認識する時点で難易度クソたけぇじゃん。人の名前覚えねえし、女子にも当たり強えし、理想の高さヤバそうだし、そういうイメージ全然湧かないもん。正直今まで好きな人とかできたことないっしょ」
「決めつけてんじゃねえ! いたわそんくらい!」
「、」◎
「え、嘘、あんの?」
あ、と口が滑ったことに気付く。
「関係ねえだろ!くだらねぇ話に巻き込むんじゃねえよアホ面が!」
「えーめっちゃ気になる!いいじゃん!中学ん時?それともうちのクラス? それとも幼稚園の時とか?」
「死ね!!」
急に黙る◎
「意外で…びっくりして言葉が出なかったというか…」
「ストイックだと思ってたから、恋愛してるイメージなかったの」
うまく笑えただろうか。
「えーなんだよお。じゃあ今度雄英と禄聖で合コンしようぜ」
「必死かよ」
「聞いとく」
「
ここで連絡先交換
電話の方が手っ取り早いって理由で勝己は電話したがる。
合コンしてもいい。爆豪派閥とかで。
トイレ
「◎が合コン企画したの意外だよね」
「しかも雄英のヒーロー科!あの中に好きな人いたりすんのかな。誰だろ」
「やっぱ線の細いか弱い男子とか好きなんじゃない?」
「じゃあ瀬呂くんかな?あの中じゃ一番細い」
「えー、瀬呂くんちょっといいなって思ってたのにー」
「中学の時好きだった人はもういいのかな」
デバガメ好き。◎の好きな人を知りたい。一番チャラい子。
「バクゴーくんって◎と中学同じなんでしょ?仲良かったんだよね」
「別に仲良くねぇよ」
「えー、そーなの?てっきりめちゃ仲良いと思ってた」
「うるせぇなテメェに関係ねえだろ」
「いやさ、ちょっとー…っていうか、すっごい気になってることがあってね?」
耳打ち
「◎の好きな人知ってる?」
「ンなもんいんのか」
「そー。同中の人なんだけど、名前とか特徴とか具体的に教えてくれないの。本の登場人物に例えたりするんだけど知らない本だし。で、今までこういう他校の男子との交流って全然来なかったから、もしかしたらバクゴーくんの友達とかがそうなのかなーって」
同じ中学出身はこの中では自分しかいない。
勝己は答えなかったが、返答を待つ様子もないまま続けた。
「周りに色白で線の細い男子とかいなかった?」
「…は?」
色白?線の細い?
「んだそれ。特徴言ってねえんだろ」
「だって文芸部の女子は全員口を揃えたようにそういう男子が好きなんだよ。儚げな感じの。神話的美少年? みたいな」
「んなモヤシみてぇな野郎とつるむわけねえだろ」
「◎から中学の時の話とか聞いたら私にも教えて!」
「くだらねえ詮索に巻き込むんじゃねえ。俺に関係ねえだろ」
トイレ行ってる間に瀬呂の隣が取られてる。
勝己の隣が空いてる
「ここ、いい?」
◎が隣
いい匂いがする。
手汗(緊張)
「おまえ、折寺ン時の、今はいいんかよ」
「折寺の?何?」
「好きな奴いんだろ」
「えっ!?」
口を押さえる。思ったより大きな声が出た。
「す…え? なん、なんで知ってるの…?」
「チャラ女が聞いてもねえのに話してきたんだよ」
「ああ、珠理ちゃん…」
過去に珠理に何を話したか思い出そうとする
勝己の視線に気付いて返答を考える
「いや…」
赤面。
今でも好きと思ってイラつく。
(モヤシみてぇな軟弱な野郎がお好みってか。何がいいんだよンな奴)
「…なんて聞いたの?」
「あ?別に何もクソもねえわ。中学ん時に好きな奴いたってしか聞いてねえよ」
「そう」
急にしおらしい
「もういいわけじゃないけど……その、そういう気持ちが完全になくなったわけじゃないし。でも、今はほとんど会えないし、元々付き合いたいとか思ってたわけじゃないから」
それは言い訳のように聞こえた。諦めるためにこの会合を利用したが、捨てきれてない恋に後ろめたさを感じているようだった。
「告らず仕舞いかよ」
「爆豪くんもそういう話興味あるのね」
笑って誤魔化す感じ
玉砕してたら
変に期待させやがって。
おめえじゃなきゃカケラも興味ねえわ。何のために来たと思ってんだよ。
「会えねえから終わったってか」鼻で笑う
「…爆豪くんは? 好きな人いたんでしょう?」
「あ?なんでてめぇに話さなきゃなんねんだよ」
「そういう話の流れじゃない。それに私だけ話すのずるいわ」
「口軽女に話してたてめぇの落ち度だろ」
「だって、こういうのあんまり…」
「もう会えねえ奴の話出し惜しんでんじゃねえよ」
「だって、あんまり言ったらわかっちゃうじゃない」
「知らねえよてめぇの交友関係なんざ」
「でも……そんなに聞きたい…?」
「ンなわけねえだろ自惚れんな」
「あっさり心変わりしてこんな飯会やってっから、笑ってやるつもりだったんだよ。薄情だってな」
「……」
無言。口数が減る。
急に冷静になって内心焦る。
「じゃあ、爆豪くんは今もずっと同じ人が好きなのね。すごい、応援するわ」
声は少し震えてる気がした。返答まで少し開いたのは、涙を堪えるためのように思えた。
「私、トイレに忘れ物しちゃった」
「誰か杏仁豆腐とか頼んだ?なんか甘い匂いするー」
手汗の匂い
◎は時間一杯まで戻って来なかった。
「あ! ◎どこ行ってたの? もう帰るよ?」
「ごめんね。操から連絡来て、ちょっと上の本屋さんまで行ってた」
「何してんのよアンタ。っていうか連れてくればよかったのに」
「一応誘ったんだけど、断られちゃった」
「あー綾吊さんってこういう空気苦手そうだもんね」
「いいじゃんいいじゃん。操が来たら絶対に◎と二人の世界出来上がってたって」
「またそういうこと言う……」
「だって実際こっち抜け出して会っちゃったりしてるしー、ねえ?」
「え、何、男の話だったの?」
「いやいやいや女子だよ。禄聖はこういう冗談がお決まりなんだよね」
「もう。初対面の人の前であんまり変なこと言わないで」
「わーかってるって。怒んないで◎ちゃん! ほら会計かいけい」
解散
最寄り降りた後。暗い
送る
無言
(アレで凹んでんのかよ)
別に謝らなければならないことを言ったわけじゃない。会えないから諦める程度の恋なら薄情なのに間違いはない。卒業以来会っていなくても枯れていない恋もあるのだから。勝己の中に。
しかし、このまま別れてしまったら、二度と会えなくなるかもしれないと。
このまま別れて、何事もなかったように話ができるような共通の話題などない。自分たちに共通点が少ないことは自覚している。オールマイトを企業が生み出した架空のヒーローだと誤解していた女だ。◎がどんな本に興味を持っているのかも知らない。好きな男がどんな奴なのかも。
嘘でも協力的な態度を見せればよかったのか。しかしそんなことは間違ってもやりたくない。勝手に添い遂げるならまだしも、何故好いた相手を自分以外の誰かに導いてやらなければならない。
無言の中、何を話せばいいのか言葉を探した。馬鹿ではない頭を精一杯引っ掻き回した。なのに、この空気を修復できるような都合のいいセリフが一つも思いつかない。
「爆豪くん、家どこ?」
「黙って歩け」
学区違うから、この辺じゃないと気付く。
分かれ道。止まる
「もう近いから、ここまでで大丈夫」
「黙って歩けっつったろ。クソ雑魚女が一人で帰ろうとしてんじゃねえよ」
早く別れたがっている。
焦る。
何か言わなければ。
悪いと思ってないのに謝るなんて、上辺だけの言葉だ。そんなことを言っても意味はない。
(ンなダセェことできっか…)
傷付けたことはわかるのに、どうしたらいいのかわからない。言いたくない適当な慰めばかり思いつく。
◎が貧弱な男なんて好きでなければ。
ああ、送ってくれるんだ。
優しくされて泣きそう。◎。
このまま、会わなくなったらどうしよう。
立ち止まる。
二人とも歩かない
「爆豪くん」
視線だけやる。
呼ばれて、何かを言われるかもと覚悟して息を飲む。
しばらく。百秒ほど経っただろうか。
「…爆豪くんだから」
「、あ?」
「心変わりしてないから、…軽蔑しないで」
震える
逃げる。
言われた意味を考える
『…爆豪くんの友達なら』
『●と爆豪が同中でさ』
『中学の時好きだった人はもういいのかな』
『心変わりしてないから、…軽蔑しないで』
それは。
『爆豪くんだから』
沸くように顔の熱が上がった。
「●!待てコラてめぇ!!」
肩に掛かった鞄を掴んだ。つんのめった◎が引き戻され、勢いで頭が勝己の顎に当たった。ガチンと口の中で歯がぶつかり舌が潰れた。痛みに息を吸う。痛え。反射的なその言葉を後回しにしても言いたいことが山ほどあった。それらは言葉になれずに堰き止められて、勝己の頭の中で渋滞を起こしていた。
「言い逃げしてんじゃねえカス!!」
「だって、言わないつもりだったのに…」
「つーかお前っ…っだああー!!クソが!!」
「先手打ってんじゃねえよ!!」
声と共に、静寂の波紋が広がる。それは想定外の台詞で、◎は頭の痛みを置き去りにした。その言葉の真意は。それを聞きたくて、◎は驚きの渦中で勝己を見上げた。
見上げた先の勝己の顔は白い街灯に照らされ、目の錯覚でなければその頬は赤かった。それにまた驚く。
絡む視線は外れない。
「…考えたことなかったかよ」
「勉強すんのにわざわざサ店なんざ行く必要ねえだろ。テストの答え合わせだって俺だけでできんだよ。今日のクソくだらねー馴れ合いの飯会なんざ虫酸が走る。それでも来てやったろうが。テメェが誘ってきやがるから」
「成績並んでりゃ当然、レベル高ぇとこに来るって思うだろが。…なんで雄英いねぇんだよ、おまえ」
「逃げんな」
「……」
「……おい、何ボケたツラしてんだ。ここまで膳立てしてやってわかんねぇなんて言わせねえぞ」
「…え?」
「え、じゃねえよ!!だからっ…、俺なんだろうが!!おまえの相手はよ!!」
「ちょ、ちょっと、ちょっと待って…」
「爆豪くん、だって、そんな前から…」
「…るっせえな」
「わ、私…」
「テメェこそ」
「テメェが惚れてんのが俺だってんなら、軽蔑なんざしねぇ」
「……あの」
「あ?」
「一番大事なこと聞いてないわ」
「ああ?」
「さっきので、終わりなの…?」
「は…!?ばっ、…っ!!っ…クソ…」
ガシガシと頭をかく。
溜息。
「……●」
「うん」
「俺ぁ…」
言おうとして言えない
「おめーのことなんざ」
「個性すら知らねぇし、なんで雄英蹴ったのかも知らねぇ。お前となんかたかだか、テストの答え合わせして、模試結果見せ合っただけだ」
「そんだけなのに、てめぇの中学ん時の好きな奴ってのが、弱っちいモヤシみてぇな奴だと思ったら、胸糞悪かった」
返事をしない。
眉間が寄り、イラついたような顔。だけど真っ赤だった。
「っ…だから…!!てめーが…!」
正面から肩を抱く。顔が見えないように。
「……てめーに惚れてんだよ、俺は」
「…ずるい、そういうの」
「はあ!?馬鹿にもわかるように言ってやったんだろが!」
「だって…」
真っ赤。全身が熱くて、服の中でじわりと汗がわく。
人が来て離れる。
「……モヤシって?」
「てめぇの連れが、文芸部の女はモヤシみてぇなヤローがお好みだっつってたんだよ。こっちはてめぇが文芸部なのも知らねぇわ。クソが」
「ああ……確かにそうかも」
「……」
「でも私は、爆豪くん…」
声が消える。
「……私も、爆豪くん、が……好き」
ドク、と胸が跳ねる。
「…今日も、爆豪くんに会いたかったから…普段あんなのしないのよ、私。でも、口実がないと…上鳴くんが何回も合コンしようって言ったから、おかしくないと思って…。本当は、卒業したらもう会わないと思って、思い出にするつもりだったのに、あの日会ったから」
「だから今日…爆豪くんが来てくれて嬉しかった」
「ああ、もう、恥ずかしい…全然喋れない」
「…とりあえず、家入れや。暗ぇ」
「うん」
「送ってくれてありがとう」
「ン」
「…お前、いつも帰り何時だ」
「部活がなければ、4時半くらいにはだいたい家に着くけど…」
「なら、週末空けとけ」
「え」
「帰ぇるわ」
「あ、うん…気をつけて…」
「あ」
「送ってくれてありがとう。……って、さっきも言ったっけ」
「…おお」
「…
この後おとん出すか迷う
交際後
勝己んちに行く。
部屋の掃除よし。ルームスプレーもかけた。家の掃除も抜かりない。出かけられるように服も選んだ。飲み物と菓子も十分ある。ゴムも用意している。完璧だ。
家の中を見回しながら、勝己は整頓されたリビングルームのソファに腰を沈め、落ち着きなく麦茶を煽った。時刻は午前11時を目前としている。そろそろ約束の時刻。自分以外の誰もいないこの家で、勝己はしきりに時計を見てその時を待った。
ピンポーン
来訪を知らせるチャイムの音と共に、勝己は飛び上がるようにソファから立ち上がった。インターホンのカメラには待ち兼ねたその人が立っている。すぐに応答してはいかにも待っていたと相手に知らせるようで、勝己はしばしカメラ越しにその人を見るだけに留めた。しかしそんな計算をする余裕なんて実際のところは皆無に等しかった。いよいよ出迎える緊張を緩めるため、勝己は上を向いて深呼吸をした。そして鼓動がいくらか落ち着いたのを自覚した後、応答ボタンを押した。
「おう」
『あ、こんにちは、●です。勝己くんと約束していて』
「俺だ。今出る。門の中入ってろ」
「お邪魔します」
「腹減ってるか」
「あ、ううん、まだ。そういえばお昼どうしよっか」
「俺が作る」
「えっ、本当? 楽しみ」
「爆豪くんの部屋いい匂いする。アロマとか焚いてるの?」
「普通にルームスプレー」
ヒーローものの映画とかゲームとか適当に時間潰す。勝己が買ってるヒーロー系の雑誌読んでもいい。
「飯作るわ」
「あ、手伝う?」
「いらんわ。適当に暇つぶしてろ」
はー。
惚れた相手を自分の部屋に招くことは、想像以上に緊張する。
「わあ、オムライス! すごーい! お店で出るやつみたい!」
「男の子が作る料理って、チャーハンとかインスタントラーメンとかだと思ってた」
「どういうイメージだよ。調理実習でまともなモンも作っただろうが」
「だって私の班の男子は野菜の大きさバラバラに切ってたから」
「モブと一緒にすんな」
「美味しい」
「オムライス好きなの」
そのために訊いたんだよ。
初キス。キスしながら手を握る。舌絡めてたけど、光己が帰ってきて玄関開く。
「チッ」
いいところで。
離れる。勝己はその先に進むつもりだったと察して少し恥ずかしい。
飲み物なくなった(緊張してる)
「…何か飲み物もらっていい?」
「ん。おお…」
階下
飲み物取りに行く
「ただいま」
「…帰り夜じゃなかったんかよ」
「あ急用ができたとかで解散したのよ」
「悪かったわね。邪魔した?ってかアンタ彼女できたなら言いなさいよ」
玄関に女物の靴があるから。
「うっせんだよ!!関係ねえだろがババア!!」
「ひゅ照れちゃってかーわいい。ちょっと連れてきてよ。勝己の彼女見たい」
「ウッッゼェ!!テメェぜってぇ部屋来んじゃねえぞ!!」
「オラ」
「ありがとう」
「…大丈夫?」
「あ?」
「すごい怒鳴ってたけど…」
「別になんでもねぇよ。いつもこんなんだわ」
「そう。賑やかなのね」
「ンな和気藹々としたモンでもねえだろ」
夕飯お招き
「迷惑かけてない?うるさいでしょ」
「あ、いえ、そんな。新鮮です。私の家は静かなので」
「緊張しなくていいよ。ね、」
キスと前戯。興奮して来て体温が上がる
「ちょっと待って…」
「逆上せそう…」
手を止めて休ませる。頭は少し熱いけど勝己の勃起しているのを見る
「…見てみたい」
「触ってもいい…?」
「なんか、別の生き物みたい」
ムラ
「…お前のも見せろや」
「えっ」
服着たままスカートの中に手を入れて下着だけを脱ぐ
触る
「あッ」
「濡れてる」
「勝己くん、待って」
くちゅ
「恥ずかしい……っ」
呼び方
爆豪くん→勝己くん→勝己
交際後、しばらくして
デート中
谷間は見えない程度のデコルテが開いてる服。すれ違いざまにチラチラ見られる。イラつく。何か着せたいけど上着がない
「おい、その服着んな」
「どうして?」
「前開き過ぎなんだよ」
「ああ、うん。思ってたより胸元開いてるのよね、これ」
胸元の襟に触れる。
ムラ
「こういう服あんまり着ないんだけど、男の子は好きかなと思って。嫌い?」
「外では着んな」
「テメェ見て鼻の下伸ばしてるクソモブ共がムカつくんだよ」
「ふふ」
「何笑ってんだよ」
耳打ち
「そう思ってくれたらいいなって。もっと勝己のもの扱いされたいのに、ストイックなんだもの」
「…」
楽しそう
鞄から薄いショールを出して羽織る
「これでいい?」
「…そんなモンがあんならハナっから使えや」
「暑かったんだもの」
「個性使えばいいだろが」
わざと下手な口実を言っているのがわかった。
男の視線を使って挑発したかったのだ。
色気を出すよりも、周囲を煽って勝己の競争意識を刺激した方が、自分に関心が向くとわかっていたのだ。余裕な態度からその思惑が推測できて、まんまとその通りに行動した自分が、◎に踊らされたようでムカついた。
「あとで覚えとけよお前」
「
「こういうの、好き?」
「死ね」
クリスマス。
ケーキは里穹が買ってる。
ごはんを◎が作るけど、勝己が約束よりめちゃ早く来て一緒にご飯作る。
「」
「ああああ!! お母さん! それ見せちゃダメ!!」
「え? どうして?」
「だってそんな気合入ってるもの……恥ずかしいじゃない!」
「でもこれは◎がこの世で一番可愛い瞬間なのに」
「それは身内だから楽しめてるやつなの!」
「操ちゃんには見せたのに……」
「操はこういうのが好きっていうのがわかってるから」
「見せろや」
「本当!? 見る!? じゃあ一冊貸してあげるわ。今年のはまだ刷り上がってないから去年のね」
「」
「これ、お前だよな」
「……うん」
「ほー」
「やっぱり返して」
「うるせぇ見せろ」
「恥ずかしい」
「雰囲気全然ちげぇな」
「だっ、だってそういうのって素を出してる方が浮くっていうか、」
「さっきから何言い訳してんだお前。もっと堂々としてろや」
「だって、恥ずかしい……」
「そんだけ意識してたら見づれえわ」
「こんだけ完璧に撮られ
番外中学
生理痛
「お腹いたい」
体育。男女分かれてて隣のクラスと合同。
「おい」
「……え? 私?」
「たりめーだろ。てめぇのツラ見て話してんだろうが」
「何……?」
もっと元気な時に話しかけられたかった。
「来い」
(もしかして血が漏れてるとか……?)
保健室
「寝ろ」
「……どうしてわかったの。具合悪いって」
「見りゃわかんだろ」
「……なんで?」
「ああ!? てめぇ何回同じこと言わす気」
「あ、違うの、じゃなくて……」
「なんで見てたの?」
睨む
「青っ白いツラが勝手に視界に入ってきたんだろが。普通誰でもわかるわ。つーか、具合悪い自覚あんなら普通に休めや」
「……授業の前は大丈夫だと思ってたの」
「でも先生に言ってこなかったわ」
「俺が言った」
「なんて言ったの? クラス違うのに」
「ふらついてる奴がいっから、捻挫冷やすついでに保健室連れてくっつったんだよ」
「爆豪くん捻挫したの?」
「ンなもんしねぇわ」
「……?」
「そう言わなきゃてめぇずっと痩せ我慢してただろうが」
「爆豪くんって、優しいね」
「ありがとう」
「……うっせ。とっとと寝ろ」
勝己だけ戻る。
「ドキドキして寝れない……」
空白
ラッキースケベしてほしい
午後体育で、放課後だいぶ過ぎた後に教室に戻って着替えてたら勝己がくる。
中学雨宿り
木の下で雨宿り。髪が濡れてる。
「何してんだ」
「あ、雨宿り」
「何時間待つつもりだよカス。こんなとこでぼさっと突っ立ってられちゃ目障りなんだよ。とっとと入れや」
「お邪魔します」
「爆豪くんって親切ね」
お前じゃなきゃ呼ばねえよ。
「ただいまぁ」
「……早かったなババア」
「爆豪くん、ドライヤーってどこに……」
「あらま」
「あ、こんにちは。お邪魔してます」
「こんにちは、いらっしゃい。あら、可愛いお客さんねえ勝己?」
「るっせえ! おいこっち入んな! 来いクソ!」
「女の子になんて口の利き方すんの!」
「迎えに来てもらったら?」
「あ、今うち迎えに来られる人がいないんです。親が仕事で。傘を貸してもらえれば帰ります」
「あら、そうなの? そしたら送って……」
言いかけて、光己は言葉を止めた。
「いや、泊まっていきな。こんな暗い中を女の子一人で帰せないわ。家に誰もいないんでしょ?」
「はああ!? てめババアいきなり何言い出しやがんだ!」
「うっさい!家に連れ込んだんだから勝己に文句言う筋合いないわよ!」
「ご迷惑じゃ」
「ああ、いいのよウチは全然。家の人携帯持ってる? 私から連絡しとくわ」
「あ、メールでいいです。仕事中は電話に出られないので」
「母はカメラマンで、綺麗な景色を撮るために何日も山に入ってたり、レタッチで事務所に篭ってたりするので家にいる方が珍しいんです。スタジオ撮影もやるけど、詳しいことはあんまり」
「へえ、家族写真は?」
「……たまに。家族写真っていうより、私の誕生日記念に写真を撮ってくれて……あの、これ内緒にしてくださいね。恥ずかしいので」
「なんで? いいじゃない記念写真」
「母は撮影の時本気すぎるから……一日がかりで撮るんです。普通のアルバムじゃなくて、印刷までして」
「へえー、そうなんだ。今度持ってきてよ。可愛く撮れてるんでしょ」
かああ、と頬を染める。