定価五百円の高嶺
(♀夢/英雄学/切島鋭児郎/中学時代)
いつも一人で何考えてるかわかんなくて、大人っぽくて美人。というのが、切島鋭児郎の認識する●◎だった。高校生に間違われたとか、芸能事務所からスカウトが来たとか色々噂は絶えない。だが、男子の中で最も色濃く広まっている噂は「ヤらせてくれる女」だった。
一回五百円。
ゴリ押しすればタダでヤリ逃げもできる。
顔と名前がわかっても●は先生にチクらない。
それを実行している男子がいるかは別として、◎はそういう対象として見られていた。
「あの話ってマジなのかなあ」
「いやー噂だろ。だってあんなに美人で五百円だったら放課後乱行パーティーじゃん」
「いや、でも噂が出るってことはさあ、あったんじゃねえの?」
「え、なにお前、●とやりたいの?」
「そりゃな?やらせてくれんだったらやりてえよ。だって五百円だろ?」
帰り道で交わされる会話を鋭児郎は聞き流していた。しっかりと聞いてはいるのだが、彼にとっては耐性のない話題なのである。
興味がないわけではない。むしろ健全な男子らしく性欲は人並みにある。だが具体的に対象となる女子がいるとなると、その女子に悪い気がして言葉を挟めないでいた。
お前らそういう話やめろよ。
その台詞はいい子ぶっているように思えた。何故なら鋭児郎も頭の中では●◎とセックスをしたことがあるからだ。実際には話したこともないし、お友達ですらないクラスメイト止まりだが。
ここだけの話。鋭児郎は財布の中に常に五百円玉を入れ続けている。●◎を買おうとしたことはない。これはいざという非常事態の時に備えている金銭で、たまたま五百円玉なだけだ。
そうこじつけて、実現レベルが低い妄想であることを自覚しながら何かを期待している。
つまるところ、鋭児郎は普通の男子中学生なのだ。
それでもクラスメイトを辱めるような発言は頑なとしてしなかった。
「五百円ケチるくらいだったら出すよなぁ」
「だよな。なんつーか、男のメンツってやつ?」
「なあ、今度●にあの噂本当か聞いてみねえ?やるかどうかは別としてさ。な、鋭ちゃんも興味あるだろ?」
声をかけられ、一瞬ビクと硬直する。反射的に友人を向き、大げさに口を開いた。
「馬ッ鹿野郎!!そんなん男らしくねえだろ!」
「しねぇよ鋭ちゃん」
もし噂が本当だったら。
五百円を使わない絶対の自信がなかった。