寮生後。:ホームシックな午前。
(♀夢/英雄学/爆豪勝己/notヒーロー志望/寮生後)
寮生になるということは、長期間家にいられないということで、あいつとも離れるってことだ。大したことねぇと思ってたが、たまに不意に「ああ、いねぇんだった」ってことを思う。こんなに長い時間会わないことは初めてだった。だからどうってわけでもねぇけど、今まで完全に安定してた私生活が物足りなくなって、なんか欠けちまってる気になる。
断じてホームシックなんてもんじゃねぇが、そういう気分になっちまった時はトレーニングルームでひたすら筋トレして無心になるに限る。戦闘とか頭使う時は別だけど、体を動かしてる時は余計なことを考えねぇ。鉄棒に膝をかけてぶら下がり上体を起こして腹筋を鍛えている時、いい感じに集中してたのに切島が話しかけてきた。
「おーいバクゴー」
「ああ?」
「ロッカーで携帯鳴ってたぞ」
「携帯?」
俺の携帯鳴らすやつなんて中学ん時までつるんでたダチくらいだ。ジジイババアもたまに鳴らすけど。どっちにしろ今は対応する気分じゃねぇ。
知らせに来た切島を一瞥してから、「ほっとけや」と短く返した。
その後も筋トレマシン一通り使って、後から来たアホ面も入れて模擬戦して、腹減ってきたからっつってキリつけてシャワーで汗流した。携帯を見たのは切島が知らせに来てから3時間後くらいだった。切島とアホ面が昼飯どうするかって話してる脇で携帯を見て、そういや鳴ってたっつってたなと思い出す。くだらねぇ用だったらスルーするつもりだったが、要件を見る前に送って来たやつの名前を見て目を見張った。
◎だ。
『いま寮?』
その四文字を見て、もしかしてこいつ近くにいたんじゃねぇかと思って、すぐに電話した。コール三回鳴らしたが出ねぇ。電話をやめてライン返信しようと耳から離したら直前に繋がって、通話は一瞬で切れた。舌打ちしてもう一回かけたら今度はすぐ出た。繋がった瞬間に口を開く。話しながらロッカールームを出る。
「おい今近くにいんのか」
『2時間くらい前までは。今はカフェ入って本読んでる』
「んだよ…来んなら前日に言っとけや」
『今日突然思い立ったから』
「てめぇの気まぐれに付き合わせんじゃねぇ」
クソが。
溜息が出た。せっかく気分紛れたのに、余計な連絡寄越したせいで…。
『疲れた声ね』
「てめぇのせいだわクソが」
『また来るから元気出して。ここの店すごく雰囲気がいいの』
「おい!俺はお前に会えねぇから元気ねぇわけじゃ」
反射的に言葉が出たが、フと我に返る。また来る。ここの店。
「おい、今どこにいんだ」
『カフェ。雄英高駅近くの』
「それはよ言えや!店名送れ」
ぶちっ。
ゴン!
電話切ると同時にロッカールームのドアを開けたら、何かにぶつかってドアは弾力で跳ね返ってきやがった。イラついて思い切り蹴りつける。中に入ってドアの裏側を見るとアホ面が額を抑えて呻いている。状況を把握した。
「何してやがんだてめえ」
「いや、爆豪が珍しく焦って出てったから、どんな急用かと思って」
「焦ってねえわ!盗み聞きしてんじゃねえよカス!」
アホ面を通り過ぎてロッカーに戻る。着替えとかタオルとかまとめてると切島が話しかけて来る。
「爆豪、おめー飯どうすんだ?」
「外で適当に食うわ」
「なあ、お前すげーテキパキしてるけど、今の電話ってまさか女じゃないよな?」
「うるせぇ死ね!」
荷物を持ってロッカールームを出た。後ろでアホが、ちょっと待ってなんで否定しないの?とか言ってやがったが構ってられるか。俺らがアホ興味津々の関係じゃなくても、相手が女だっつったらどうせ詮索してくんだろ。
さすがにタンクトップとジャージじゃ出られねぇから部屋戻って手早く着替えて財布と携帯だけ持って先生んとこに外出申請してから寮を出た。携帯を見ると◎から店の名前の住所が送られてきてる。ご丁寧にランチあるって情報まで送ってやがったからそのまま待てって返した。