セピア。
(SS/英雄/轟焦凍/名前変換無)
ガキの頃、外で遊ぶことも兄さんと話すこともさせてもらえなかった俺が、唯一話すことができた子供がいる。そいつは無邪気に俺に駆け寄ってきてこう言う。
「しょーとくん、遊べる?」
戸惑って言い淀んでいるうちに、そいつは俺の手を取って外に連れ出した。親父の不在がわかっているかのようにいつも狙ってやってくる。俺はそいつといる時は許されているような気がして、いつしかその手を取るのを躊躇うようになった。誰かに許されることは、あいつへの恨みが薄まる気がしたからだ。
「しょーとくん、遊べる?」
そいつは問答無用で俺の手を引くくせに、いつもそう問いかけてくる。そいつの手には、俺が常に求めているものがあってとても魅力的だった。平穏、俺の外側にある日常、楽しげな笑顔、温かい交流。けど、俺は親父を許すわけにはいかなかった。だから俺が誰かに許されてもいけないんだ。本能的にそう思った。
「………遊べない」
それを口にすることはすごく怖かった。拒んでしまったら、そいつはもう俺のことを遊びに誘ってくれないと思った。そしてそれは当たっていた。
そいつは少し悲しそうな顔をしてしばらく俺を見つめた。俺が何も言わないでいると「わかった」と言ってしょんぼりして俺に背中を見せた。
引き止めたかった。本当は遊びたいんだって言いたかった。せっかく話しかけてきてくれたのに、無下にしなければならないことが悲しかった。
俺はそいつの名前も、どこの誰かも知らない。近所なのだから簡単に調べることはできたかもしれない。心のどこかであの優しさを求めていた気がする。だけど探す理由が拙く思えて、一度も探したことはなかった。期待して見つからなくて落胆するのも嫌だった。小走りに去る背中が目に焼き付いて、時折思い出しては戒めにした。
今もし会うことができたら、また誘ってくれるか。そんなことを時たま願う。