それでも時間はいつだって平等に流れる(上)
(♂夢/忍卵/七松小平太/性表現/片思い/幼なじみ)
昔のことばかりを思い出すのは、あの頃に戻りたいからだろうか。
あの頃の○は、人見知りが激しくて、友達がいなかった。そうだ、寂しそうで寂しそうで、仲間に入れてあげたくて私が声をかけたんだ。子供らしくない戸惑った顔をして、私の手を取るのを躊躇っていたから無理やり引っ張りだした。以来○は私の手を握りたがった。他の誰と遊んでいても、○は必ず私を求めていた。嬉しかった。私は○が可愛くて大好きで仕方なかった。
私は月日とともに体力と腕力が人よりも強くなっていった。腕相撲で大人に勝てるときだってあった。私は人よりも優れていることが嬉しくて誇らしく思った。なのに力加減ができなくて、いろんな人に怪我をさせるようになって、みんなが離れていった。力が強くてすごいと誉めてくれる人は誰もいなくなった。
私は強くなれたのがすごくすごく嬉しかったのに、認めてくれる人はいなかった。みんな私を離れていって、私を悪者扱いした。悲しかった。人と一緒にいるのが怖くなった。何かに触れるのがすごく怖くなった。私は独りぼっちだった。誰も私に近寄らなかったし、私も誰にも近寄れなかった。
○だけ違った。○は私から離れなかった。ずっと手を握っていてくれた。
私は嬉しくて泣いた。力一杯抱きついて泣いた。すごく苦しかったはずなのに、○は「大丈夫」と言って抱き返して、優しく背中を撫でてくれた。○だけは傷つけたくなかった。
私は○といるときは絶対に怪我をさせないように細心の注意を払った。○と一緒の時は高いところに上らなかったし、山奥にも行かなかった。落ちたら危ないし、山道は危険がいっぱいあったからだ。
それでも子供だ。走って転びもするし、足を滑らせて川に落ちたりもする。血が出ないような掠り傷でも、日が経てば跡形も無くなるような痣でも、それが○の身に起こったのならば、私は世界の終わりのように心が真っ黒になった。それでも私が今でも○と一緒にいられるのは、○が笑ってまた私と遊んでくれたからだ。
さらに月日が経つと、○は冒険的な外遊びが好きになった。それまで草鞋作りや水遊びなどといった、さほど体を動かさないものが好きだったのに。私は焦った。外で力一杯遊んだら怪我をしてしまう。
私は○を室内へ押し込めようと必死になった。だけど○は私の手を引っ張り外に駆けながら言った。
「わらじ作るより、小平太と遊んだほうが楽しいよ!ねぇ小平太、木登り教えて!」
涙が出そうになった。
私と遊んで、私に怪我された子をたくさん知っているはずなのに、○は私と遊びたいと言ってくれた。こんなに嬉しいことはなかった。誰より力が強くあるより、誰にも負けない体力があるより、嬉しかった。○のためならなんでもできると思った。
私たちは暗くなるまで一緒に遊んだ。川で魚を追い掛けて、木の上できれいな夕陽を見て、顔に擦り傷を作るくらい力一杯遊んだ。顔が疲れるくらいいっぱい笑った。村の畑で力尽きて眠るくらい全力だった。
私が崖を登ったり、川の石の上を身軽に飛び越えたりすると、○は必ず言ってくれた。
「すごーい!小平太かっこいい!」
そうだ。
もともとそれは私に向けられていた言葉だったんだ。