雨の日。二
(お粗末/あつトド)
マンションに入ると傘を閉じた。傘を差しても完全に雨を避けることはできず二人とも濡れてしまった。特に足元の濡れ具合が酷い。空は快晴なのに、ずぶ濡れになってしまうなんて変な感じだ。
「外が晴れれば勝手に乾きそうなんだけどね〜」
「湿度高いから無理だって。服貸すから着替えなよ。結構濡れただろ」
「えへ、何から何までごめーん。お言葉に甘えまーす」
「はいはい。洗濯しとくよ」
靴下がかなり水を吸っていたので玄関で脱いで、リビングに行く途中で洗面所の洗濯籠に放り込んだ。着替えてすぐにトド松くんの服もまとめて洗濯機を回す。リビングに戻ると、トド松くんは既にソファにうつ伏せてスマホを弄んでいた。人の家にいるっていう自覚がないんだろうか。許すけど。
「相変わらず寛ぐの早いね。ニートの才能?」
「はぁ?なに喧嘩売ってる?買うよ?」
「事実じゃん。言い返したきゃ働きなよ」
「うぐ…。仕方ないじゃん、このソファ気持ちいいんだもーん」
「そこ言い返さないんだ」
「って、ちょっと、人のお尻の上に座るの止めてくんない!?重いんだけど!」
「休ませてよ。雨の中歩いて疲れた」
「えー野郎に座られても嬉しくねー」
不満そうだが抵抗はせず、抗議であげていた頭を下ろして、トド松くんはぐったりと脱力した。はは、と笑う。平常心を装っているけど、僕は緊張していた。触れている部分に意識が向く。体温や感触に。尻に触れてるし、変なことも考える。男だからね。好きな人が自分の服を着ているってのも、なかなか煽られるものがあるし。
嫌われたら元も子もないから、理性的に行動するけど。
「トド松くん、お腹空いてる?これからお昼作るけど食べない?」
「え!作ってくれんの?」
「簡単なものしか作れないけどね」
「やりぃ!食べる食べる!もーあつしくん大好き!」
あつしくん大好き。
なんだかんだで、それは彼の口から僕に対して幾度となく向けられている言葉で、その度に僕は抑えようのない喜びと、言葉に含まれている意味を理解すると同時に味わう落胆を思い知らされている。
平常心。
「本当に調子いいよね君。そういうところ清々しくて好きだけど」
―――本当に。
しばらくそうしてトド松くんを尻に敷いていたけど、お腹も空いてるし長い時間は座っていなかった。キッチンにある食材を確認して、トマトパスタでも作ろうかなとオリーブとかアンチョビとかにんにくとか、具材と調味料を出した。これ絶対酒欲しくなるけど、車で送りたいなぁとか考えながら僕が調理を始めている間、トド松くんは我が物面でテレビを点けてDVDを物色している。前に来た時にテレビ周りの機器にテンションが上がってて「テレビつけていい?」とか「DVD観ていい?」とか逐一許可を乞うてきたから、好きに使っていいよと話していた。トド松くんの家にはDVDプレーヤーはないって言ってた割に、操作はいつも淀みない。