雨の日。一
(お粗末/あつトド)
雨が降るな、と思った。
午前中にベランダに干した洗濯物を取り込んでから、折りたたみ傘を持って食材を買いに出かけた。外食も多いのであまり量は買わないが、たまには南瓜の煮付けが食べたいとか、好きな子がいつ来てもいいように彼が好きなものを備えておこうとか思いながら商品を籠に入れる。会計を済ませて店を出ると、予感が的中して天気雨が盛大に降り注いでいた。空は明るく快晴に見えるが、地面を叩きつける雨の勢いは凄まじかった。
折り畳み傘を開き帰路につく。軒下には雨宿りしている人が何人もいて、傘をさす人は少ない。鞄を頭の上にのせて雨を避けながら走る人がいたが、雨避けはほとんど意味がなさそうだった。
盛大な天気雨の中を歩く機会は少なく、周囲の歩行者を注意せずに歩くことが珍しい気もして、何となしに人が佇んでいる軒下を見ていた。本当に急に降られたようで、雨宿りをしながらも既に髪や服が濡れている人が何人かいる。早く雨が止まないだろうかと軒下から空を見上げる人がほとんどで、仕方なしというように店に入る人が多い。退屈そうにスマホを弄ぶ人もいて、その中の一人に目を奪われた。見覚えがあった。一瞬目を疑って立ち止まり注視すると、その人はやはり自分の友人だった。こちらに気づく様子が微塵もないので、そちらに歩を進めると、その人ばかりが僕に気づかず、その手前にいる女の子二人組が僕を羨ましそうに見ていた。
「トド松くん」
呼び掛けたが、雨の音で聞こえていないのかスマホから目を離す様子がない。仕方なく軒下まで入って彼の肩を叩くと、彼はハッと顔を上げた。そして僕だとわかると、目を見開いて「えっ!」と結構大きな声を出した。
「あつしくんじゃん!わー、ぐうぜーん!どうしたの?」
唐突な僕の登場に驚いたようだったが、偶然友達に会えて嬉しいというように笑ってそう言った。トド松くんの勢いにつられて僕も口角が上がる。普段から笑顔を心掛けているけど、感情的な笑みを引き出された感じ。
「僕は買い物帰りだよ。傘ないなら入ってく?うちで雨宿りしたら?」
「え、いいの?ラッキー!ありがとー」
言うと同時にトド松くんは傘の中に滑り込んできて、瞬間何故か女の子から香るような、と言うと過剰だけど、仄かにいい匂いがした。たぶんシャンプーとか石鹸とかの匂いだけど、意識してる相手の匂いはより敏感に五感が働く。歩き出すと、相合傘って思いの外お互いの距離が近いな、と思う。トド松くんは全然気にしてないだろうけど。
後ろで女の子が、いいなぁあの人、と言ったのが聞こえた。