彼の目に映る。








(♂夢/忍卵/尾浜勘右衛門/現パロ)


反射的に、下がる。
唐突に手に掛けられた眼鏡は勘右衛門に抜き取られ、レンズ越しに映っていた視界は唐突にクリアになった。同時に光も多量に吸収されて、一瞬目が眩んだようにぐらりと揺れた。

「おいこら、びっくりするだろ」

「だって暇だったんだよ」

「返せよ」

「いいじゃん、見えるだろ?」

勘右衛門は俺の伊達眼鏡をかけて逃げるように席を立った。咄嗟に彼を目で追ったけれど、追い掛ける時間ももったいなくて俺は学級日誌に向き直ることにした。

間もなく書き終わる、というところで、勘右衛門がぽつりと呟いた。窓際に立って、宙を見ているような視線で教室を見ている。

「なんだよ」

「や、○の視界はいつもこの眼鏡越しって考えたらさ、いいなぁって」

「なにが」

「この眼鏡」

「…意味がよくわからん」

「なぁ、これくれない?」

「やらん」

日誌を閉じて立ち上がる。勘右衛門も窓から離れて鞄を掴んだので、一緒に教室を出た。

職員室に日誌を提出して昇降口を出たときには、暗い赤が鮮やかに全てを染めていた。

「眼鏡」

「いいじゃん、別れ道まで」

全く返す気がなさそうな勘右衛門は楽しそうで、まあいいかと諦めた。
並ぶ足音がある道はいつもより明るい。

「○」

「ん?」

「今日からよろしく」

こちらを見て笑う勘右衛門はいつもとは少し違っていて、俺たちの関係は少し変わったのだとようやく実感した。俺も少し緊張して、中途半端に笑って返事をした。

帰路の途中にある公園のトンネルの遊具の中に入って、俺たちは密やかにキスをした。

「やっぱ眼鏡いらない」

勘右衛門が嬉しそうに言った。