ぬくぬくグッナイ。
(♂夢/忍卵/善法寺伊作)
医務室の戸を開けると、室内に布かれた布団が真っ先に目に入った。誰かが安静にしている、という思考より先に、またか、と伊作は思った。戸を閉めて布団に近づくと、掛け布団からはみ出ている頭に声をかける。
「○ー?」
起きているのを確信している声色で、伊作は横たわっている同級生の返事を待つ。しかしさほど待たされることなく、布団はもぞもぞと動いた。布団から顔を出して、ぼんやりした顔が伊作の目に映る。
「また寝れなかったの?」
「うん…」
○は忍者体質というのか、夜になると無条件に目が冴えて五感が緊張している。眠れる訳がなく、いつも寝不足だった。四年生の秋ごろから眠れなくなって、今は毎晩そんな状態だ。
ついには部屋にいても落ち着かなくなり、毎日のように医務室の布団を拝借している。
「薬は?」
「いい…こないだ飲んだら、体は寝てるけど頭起きてるみたいになって、疲れた」
子供が愚図るようにもぞもぞと話している姿は、とても同い年には見えない。けれど彼は、実習の時はプロ忍者顔負けの実践能力を発揮するのだ。座学の時はほとんど寝ているけれど。
「伊作ー…一緒に寝て」
きた、と思った。
医務室よりも布団よりも薬よりも、○の安眠剤になるのは人肌だった。後輩たちが抱き枕にされているのも見たし、自分にそう要求されるのもよくあることだ。
必要とされるのが培った知識でも技術でもなく、体にめぐる温もりであるということが、不謹慎にも嬉しかった。
「うん」と返し、伊作は布団に潜った。同じ布団に入った途端、○の体から緊張が抜けたのがわかった。それとともに目蓋も下りて、やがて寝息が聞こえた。
「おやすみ…」
寝息に心が解されるのを感じて、伊作も自分が癒されているような気がした。