お星さま。








(♂夢/忍卵/立花仙蔵/現パロ)


「あ」

「あ」

発見の声に反応して、向けられたほうも同様に相手に気付いて声を出す。
○は意外そうに仙蔵を見、仙蔵も誰か知人と会うとは予想外、と言わんばかりの顔を見せた。
しばし仙蔵を見つめているだけの○が、驚きの表情を内側に戻しつつ口を開く。

「立花って、コンビニ来るんだ」

それで仙蔵も、言葉を発するだけの平常心へ戻った。

「お前、私をなんだと思っている」

「だってなんか、本買うなら本屋行きそうだなぁって」

溜息混じりに言う仙蔵に、○は彼に対する率直なイメージを口にした。学校で見る○の仙蔵に対するイメージでは優等生のお坊ちゃま。まさかコンビニの雑誌コーナーで立ち読みをするとは夢にも思わなかった。「まぁ大抵はそうだがな」と言い、仙蔵はタウンウォーカーをラックに戻した。
○は邪魔しちゃったかな、と思いつつ、だけど不快そうでない仙蔵を見ると、あまり気にせず再び声をかけた。

「なんか買うの?」

「いや、暇つぶしに入っただけだ」

「あ、んじゃあさ、一緒帰らねえ?」

仙蔵はそれまで意識していなかった目線を○に向けた。少し驚いているようにも見える。特に思い出せる交流もないため、二人は互いにただのクラスメイトという間柄だ。仲が良いわけでもなければ、悪いわけでもない。当たり障りない二人であった。
と、仙蔵は瞬時に自分と○の親密さを思考した。だが特にそれに意味はなく、教室の外で初めて向き合った彼が何故だか好意的に思えて、仙蔵は○に同意した。

______...


○がレジで会計している間、仙蔵は先に外に出た。日は暮れて、空はオレンジと紫が混ざりあって、きれいだった。東はすでに暗くなっている。
自動ドアの開く音がして、○は小走りで駆け寄った。「いやー悪い待たせて!」と笑顔で言い、仙蔵はそういえば自分は待っていたと思い出した。二人は途中まで同じ道のようだったので、そこまで一緒に帰ることにした。

「ん」

歩いていると、不意に隣から前に手が出てきた。仙蔵は一瞬足を止め、胸の前に出た手を見下ろした。半分に割れた肉まんがあった。珍しく仙蔵は困った。

「あれ、肉まん嫌い?」

「嫌いじゃないが…お前が買ったものだろう」

「いーのいーの、一人より二人で食ったほううまいし、帰ったら夕飯あるし。ほら」

引っ込めようとしない手はむしろ押しつけてくる程で、仙蔵は仕方なしに受け取った。そうすると○は満足そうに笑い、自分の手にある半分を持ち直すと「いただきまーす」と頬張った。倣うようにして仙蔵も「いただきます」と言って一口齧った。美味しい。

「いやーなんかこうやって話すの初めてだなー。立花美人じゃん?なんか恐れ多いっていうかなー、あ、別に変な気持ってないからな?」

○は教室で話しているように気楽そうに話しはじめた。会話する話し方ではなく、好きなように喋っているため、仙蔵は聞くに撤した。教室でも思っていたが、○はよく喋る奴だった。

「あ!一番星!」

空を見上げる○につられて、仙蔵も空を見上げた。マンションの影に隠れそうなところに、きらりと輝く一等星があった。別に感動した訳でもないが「おお」と声をもらし、そういえば一番星を見たのは久しぶりだと思い出した。

「他の星出る前にお願いしよーぜ!えーと…えーと、今日のおかずはピーマンの肉詰めが良いです!」

「願い事は流れ星じゃないのか」

「流れてても流れてなくても星は星だよ!一番星って、なんか叶えてくれそうじゃねぇ?」

適当だな、と思ったが、その考えはやけに心を綻ばせた。ふっと笑った息が洩れ、「そうか」と返す。それを見て○は「あー、バカにしたろ今っ」と軽口を叩いた。「そんなことはない」と返したが、○は納得していない主張をした。
それを適当にあしらいつつ、願い事か、と仙蔵は心で呟いた。
思春期に入って以降久しぶりに、無邪気な奴が現われたなと思った。


(またこうして、話ができるといいな)


無意識に口元に笑みが浮かぶ仙蔵の心を聞き入れた、と言うように、空には流れ星が一筋流れた。