どこから来ましたか。二









(♂夢/忍卵/五ろ)



日常的で夢のような感覚でまた日が上った。今日も俺はそこで目覚めて、昨日と同じように服を着て、食堂へ向かった。今日は誰とも行き会わないと安堵する。そして、そういえば今日は授業が休みだと思い出した。前日同じ学年らしい男子達が、今日は何処に遊びに行くかと話していたのだ。

兵助も勘右衛門も出かけたのか、と思った。親しいらしい彼らが不在なのは、化けの皮が剥げる不安要素が無いということだ。いくらか気が楽になる。しかし心許ないとも思う。



知らない奴から声をかけられても俺は困るしかないので、誰かしらと接触する前に早々に朝食を済ませて逃げるように部屋に帰った。
しかし帰ったところですることがないからひたすら暇だった。
食べた後に寝ると牛になるという意味不明な知識が甦ったが無視して寝転がった。頭の後ろに手を組み枕にする。

昨日今日起きた時と、昨晩寝る時、部屋には俺の他に誰もいなかったからたぶん俺は一人部屋なんだろう。好都合だった。誰にも気を遣わなくていい。

しかしと考える。これは誰かに話したほうがいいのだろうか。なんとなく、兵助が思い浮かぶ。目覚めて一番最初に会ったからか。もしかしたら彼と同室だったなら二人きりになれたときに話せたかもしれないと思ったが、兵助は勘右衛門と同室らしい。
しかし、話さなくても現状維持できるなら俺は話さなかったような気がする。
話してもいいことは無さそうだと予想はつく。



今日は畳の上に寝転がってごろごろするしかない。
誰かと会いたいなんて思わないし、娯楽も勉強もしたい気分じゃない。何もしないでいたいと思うのに、退屈って思うのは矛盾だよな。

二日前以前の俺は休日はどうやって過ごしてたんだろうか。
ぼんやりと天井の染みを数えながら考えるが、知らないことをいくら考えても答えが見えないと思い放棄した。

今日はすこぶる天気がいい。日向ぼっこしたい。ああでも外に出たら誰かと会うだろうなぁ。やっぱり引き籠もるしかないなこれ。


「あー………暇すぎる」


瞬間、パァン!と戸が開いた。俺は文字通り飛び上がり、目を白黒させたまま戸を見た。勢いがつきすぎたせいでせっかく開けた戸は跳ね返って半開きになっていた。あらためてスパン!と開けられた戸は今度はきっちり押さえられて全開になる。かなりの確立で当たり前だが、知らない奴だ。

「暇だと!!?○!私たちがいったいどれだけ門の前で待ってたと思う!」

「ちょ、うっさい。あと戸壊れるから静かに開け閉めして」

「今日はみんなで町に出かけるって約束してただろう!」


そーなの?
そりゃごめん。
そしてお前誰。

面長で茶髪のそいつは憤慨していて俺の言葉に耳を貸さない。会話をする気は無さそうだ。
口振りから察するに、一緒に出かける約束してたんだろうな。それをすっぽかして部屋でごろごろしつつ暇なんてぼやいてたらそりゃ怒るわ。

しかしせっかく迎えに来てくれたところ悪いが、勘弁してくれ。残念ながら日が真上に上る前から知らない奴と出かけるほどの精神力は俺は持っていないと思う。

昨日はよかった。兵助や勘右衛門と一緒にいたけど、厳密にいえばまともに一緒にいれたのは休み時間だけだった。だから大したことなかったんだ。授業中は話せないし食事時は食うのに集中したし風呂は彼らの後輩と鉢合わせて俺は黙々とできたし。
しかし休日に友人同士で出かけるのは無理がある。絶対どこかでボロが出るはずだ。ここはどうしても一緒に出かけたくない。





仮病使うか。



「や、悪い。なんか今日は体調がすぐれな」

「おい○、なんで制服なんだ?早く着替えろよ」

「○、早く支度しないとうどん屋さん混んじゃうよ?」


俺の言葉を遮って、さらに知らない奴が二人入ってきた。なんだこの狙ったようなタイミングは。しかも一人だけ顔違う奴が母親のように面倒見よく勝手に服を引っ張り出してくださった。制服以外の服はそこにあったんだな。
もう一人は面長の茶髪と瓜二つ。こいつら双子か。こいつは早く早くと着替えを急かしてくるし……。
これじゃ逃げるのが不自然だ。





別に一緒に行ったっていいんだ。
俺が危惧しているのは忘れているのがバレることだ。バレなきゃいい。

バレたくない理由は細かくある。
説明できないこと。俺でも自分のこと詳しく知りえないのに、絶対に聞かれるであろう「なんで忘れたのか」という調査に巻き込まれたくない。知らないものになんでも糞もない。

自分が誰かもわからなかった。名前すら知らなかった。それなのに兵助の名前を呼んだり、授業でそれなりにいい出来だったりという矛盾。体が反応したなんて誰が信じるんだ。



ああ…それなのに、名前も顔も知らないこいつらと外出しなければならない。
名前が思い出せないモヤモヤ感ももうしていない。昨日みたいに体が反応するのはもう時間切れになったんだ。


なんで忘れちゃったのかな、俺。