死の花の微熱。
(♂夢/忍卵/立花仙蔵/死)
『仙蔵、―――…』
右半身が、火傷とともにけだるさを拾ってきた。このまま眠れたらどんなに楽だろう。
六年間、そしてそれ以降も必死で身につけた忍術は、たった一つの恋で、こうも意味をなさなくなるものか。
不条理な感情だ、と思った。
冷徹で真摯な瞳に憧れていたのに、対峙して見るそれはこんなにも残酷なものだったのかと知る。
もう自分には死しかないと知りつつも、それでもその目が何よりも美しいと思えてしまう。自嘲する。馬鹿だと。
情けをかけない奴だとは知っている。
「○―――…」
(お前は、最期に忍を捨てようとする私を軽蔑するか…?)
冷酷な瞳は仙蔵を見下ろし、気紛れに手を止めた。この手が一思いに心の臓を突けば、仙蔵はここで終わる。
命の短長は何を基準にしているのかはわからないが、例え十八年の年月が短くとも長くとも、命の糸を切るのが○であるならば、仙蔵の命はこの上ない至福を全うするだろう。
「○…」
美しく口角が笑みを作り、死など知らぬような純粋無垢な顔で仙蔵は幸せを見せた。○は口を覆っていた布を少々荒っぽく外し、仙蔵を見た。無表情な瞳の奥に、まだ人の心を宿した温かな瞳があった。
「○」
「………」
「○」
「………」
「○、愛している」
「………仙蔵」
懐かしい笑顔を見て、仙蔵はかつての思い出の情景を重ねた。ああ、と歓喜に零れた声は、果たして○まで届いただろうか。
ざしゅっ。
涙が顎を伝った。
ははっ、と乾いた、悲哀に満ちた笑い声の後、もう次には美しい屍しかそこに無かった。
『○、また仙蔵見てる』
『んん…ああ、またか』
『ダメだよ。僕たちもうすぐ卒業なんだから、けじめつけないと』
『わかってるよ伊作。もう卒業だもんな』
『仙蔵、綺麗だよな』
それは純粋でひたむきで、残酷な言葉。