主観.2
(BL/種が運ぶ命/アスラン×レイ/前サイトから転載)
死んでしまいたい。
そう言ったら、俺に触れているアスランの手が、一瞬強ばった。俺の偏頭痛を和らげるように優しく撫でてくれた手が止まってしまったことに少しだけ不満が生まれて、振り返って彼を見る。するとそこにいたのは、優しい聖者のような彼の笑顔ではなく、瞠目した表情だった。そこには間違いなく絶望の色が見えて、俺はああ悲しませてしまったと思った。
どうせ彼の重い痛みを俺は溶かすことが出来ないとわかって、再び彼に背を向けた。
彼はしばらく静止していたが、背後で動く気配を感じると俺の視界に男らしい腕が映る。それがアスランの腕だとわかった時には、俺は耳元の頬に口付けられていた。
かすかに吐息が耳に滑り込んで、背筋がぞく、とする。
そこから滑らかに首筋に頭を乗せられると、視界にあった腕は下へと下がっていき、やがて俺の手を握った。アスランのその手は温かく心地よいものだった。
ああ幸せだと思っても、どうしても死にたくなる気持ちを消し去ることが出来なかった。
自分でもどうして死にたいと思うのかまったくわからない。アスランがいて俺は幸せだし、彼とずっと共にいたいとも思う。こうして慈しまれることも、これ以上ない幸せだと思っているのに。
ただ、よく考える。
もし今俺が死んでしまったら、アスランは間違いなく悲しんでくれるだろう。だが何年かしたら、絶対に新しい恋人ができてしまう。そうしたら俺のことなんてアスランの中から消えてしまって、今のこの時間もなかったことになるのではないか。
そう思うと絶望しか抱けなかった。
アスランからの愛情が消えてしまうということが、何よりも恐ろしかった。
(消えたくない)
でも死にたい。
失う恐怖に満たされながら愛し合うのなら、すべてを放棄して死んでしまいたい。
それでも、アスランの中ではずっと生き続けたい。
愛されてほしい。
消えたくない。
死なないで、と俺に訴えるアスランの呟きが涙声に聞こえた。
この瞬間が止まって、永遠に続けば良いのに。