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「………海っていうものはな、」
ふと、恐怖が微かに和らぐ。
それは、この人が目線を私から外したからだろう。
………と言っても、視界から外した訳じゃあないけど。
それでも、暗くて顔もよく見えないこの人は、私の向こう側にある海を見ているような気がする。
「海は、偉大なんだ。
何でも受け入れて、何でも無に還す。
『海は全ての生き物の母』なんて、よく言ったもんだよな。」
―――なんでだろう。
この人、今、綺麗に笑った………?
「さて、お喋りはここまで。
そろそろ『お仕事』の時間だ。」
「………え、あ………。」
突然鋭くなった眼光に、私は怯み変な声を出しながら後ろへと下がる。
………でも、じりじりと追い込まれ後ろはもう海で。
夜の海の深さが、私を呑み込もうと待っていた。
「もう、いいだろ?」
「………や、やだっ………嫌っ………!」
「そんな事俺に言われてもな。
まぁ、ターゲットにされるような自分を恨め。」
「違っ、私知らないっ………殺されるような事、してませんっ………!!」
そもそも、なんで私は殺されかけてるんだろう。
―――少なくとも私は、人に恨まれて狙われるような事はしてない!
そう叫んでも、再び近付いて来た目の前の人は止まってくれなくて。
「別に神様とやらを信じてる訳じゃないが………頼むから、俺を呪ってくれるなよ。
―――じゃ、海の中で安らかに眠りな。」
滲んだ視界に、刃がキラリと閃いた。
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