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―――海が、視界いっぱいに広がっていた。
「………ッ!!!」
嘘………私、誘導されてたの………?
そう悟った時、コツン、コツンと靴が古びたアスファルトと触れ合う音がして。
冷や汗を流しながら慌てて後ろに振り向き、後退った。
響く足音に、全身の筋肉が否応無しに緊張する。
「………アンタ『警察に逃げ込めば助かる』って思ったんだろ?」
「………ッ」
「甘いよなぁ。
そんな事も想定出来ないような奴が、わざわざターゲットに「今から殺します」って教えるか?」
確かにそうだ。
危ない事があれば警察に駆け込む、なんて小学生でも分かる。
でも、じゃあ、なんで?
そう思った時、目の前の銀色は、まるで私の何もかもを見下したように笑った。
「………さて、ここで問題です。
俺がここにアンタを誘導した理由はなんでしょう?」
「何、それ………ふざけてるんですか?」
「おいおい、せっかく長生きさせてやってんだからさ、少しは考えてみろよ。
ま、そんなに諦めてるなら話は別だけどな」
じり、じりと後ろに下がりながら、距離を取る。
だけどやっぱり相手も馬鹿じゃなく、相手も私に向かって靴を鳴らしながら近付いて来る。
漆黒の中で銀の髪だけが不気味に浮かび上がっていて、それは私の絶望を映してるようで。
泣き出しそうになるのを堪えながら、必死に答える。
「………そんなの、人気が無い場所の方が都合がいいからに決まってるじゃないですか」
すると、絶望はまた笑う。
私の膝と同じように、また嗤う。
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