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そして。
反射的に、抵抗しようとした私は。
目を強く瞑りながら、その時たまたま持っていたビニール袋の中から無造作に『それ』を取り出し振り上げた。
「こ、来ないでぇっ!!!」
「………は?」
ピタリ、と世界が止まる。
目の前の銀色は、ナイフを振りかざしたまま固まってしまった。
一方、私は手を震わせながらまるで竹刀のように『それ』を握り締める。
『それ』は、暗闇の中で鈍い光を反射しながら白く輝いていた。
「………え?あ、あれ?」
固まったまま動かない銀色を見て、不思議に思い片目を開けてみる。
すると、その人はふるふると肩を震わせていて。
どうしたんだろう、と思っていたら突然。
「………ブッ!!?
クックックック………アンタ、面白い奴だなあ!!」
その言葉を皮きりに、盛大に笑い始めた。ただただ唖然とする私と、お腹を抱えて笑っているその人。
え、な、何これ………?
やがてその人は私の持っている『それ』を指差し、息も絶え絶えになりながら言葉を紡いだ。
「クックッ………アンタ、馬鹿だが面白ぇ………!!」
「な、何がですか………!?」
「何って………、
―――普通、ナイフに『大根』で応戦しないだろ!!!」
そう、私が握っているのは今日買った大根。
だ、だって武器になりそうなのコレだけだったし!
羞恥心から顔を真っ赤にしていると、その人は相変わらず笑いながらナイフを懐にしまった。
「あー、久々に大笑いしたー。
殺る気萎えたし………まぁいい、今日は見逃してやるよ」
「ほ、本当ですか!?」
良かった、やっと『家』に帰れる!
そう心の中で零しながら、ついつい緩んでしまう頬を手で隠す。
すると目の前の人は黒いコートを翻しながら、笑顔で私に告げた。
「朝比奈ミナト………これから"観察"させて貰うぜ。」
「え?」
「アンタみたいな面白い奴を見た事無いんでね、暫くここら辺に留まってアンタを"観察"する。
勿論飽きた時には殺すから、残りの人生を精々楽しめよ?」
それだけ言って、銀色は闇に消えて行く。
残された私は呆然と立ち尽くしたまま、脱力しその場に崩れ落ちた。
「………な、何それ………!?」
これが、私の運命が静かに胎動を始め全ての歯車が回り出した、悲しい夜だった―――………。
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