寂しい人


あの人には、冬が似合うと思うの。





彼は、確かに桜がよく映えるけれど。

彼そのものには冬が似合うわ。





雪雲が月明かりを閉ざすような夜は、ふすまを少しでも開ければ肌を刺すような寒気が入る。

だから気付かない訳など無いの。



隣の温もりが、慶次が開けたのだということなど。

慶次が月明かり無き空を、縁側で見上げていることなど。



彼の技は桜が舞う。

彼の技は豪快かつ華やか。そして大胆。

それ故に、彼は春の男だと思われる。



間違いではないわ。

慶次の笑顔は、人の心に春を呼び込むもの。



けれど。

慶次、貴方には冬が似合う。



彼は春の笑顔の裏に、寂しそうで、それでいて切ない瞳を隠しているもの。



亡き人を想い、艶やかな髪をしっとりとたなびかせながら見上げる雪空に佇むその姿は、いつか霧散して消えてしまいそう。

それでも私は手を伸ばせない。



冬の中むき出しになった彼の繊細な胸のうちに、やすりをかけるわけにはいかないの。

臆病でもいい、彼もまた臆病なのだから。





「………起きてたのかい?」

「ええ。貴方が襖を開けた時からね。」

「こいつは参ったな………閉めればいいのに。
風邪を引いちゃ悪いよ。」

「あら、それは私の言葉よ慶次。
風邪を引くわ、さぁ中へお入りなさい。」



振り向いた彼の瞳はやはり冷えきっていて。

それでも、彼がふすまを閉めて抱き締めてくれれば温かいの、不思議ね。



ねえ、慶次。

愛しくて堪らないわ、冬の人。










寂しい人




(ねねは、狡いわ。)

(慶次にこんなにも想われてながら逝ってしまったんだもの。)


(腹違いの姉は、どんな想いで慶次に抱き締められていたのかしら。)

(きっと、こんなに切ない気持ちにはならなかったのでしょうね。)









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