鏡花水月 | ナノ

06 我愛イ尓

(7/22)


「華ちゃん、大丈夫!?」
「美朱!?」
驚いて目を見開く。
どうしてわかったのだろう。
「華、怪我はないのだ!?」
駆け寄ってきた井宿が、錫杖で翼宿を雑に殴る勢でどかし、華の肩を優しく掴む。
勢いにおされて、こくんこくんと、頷けば心底ほっとしたのか、井宿が大きく息を吐いた。
「ちょ、ちょお待て! お前ら誰や!」
「あれだけ騒いでたら、丸聞こえよ。華は返して貰うわよ!」
柳宿が攻児の首根っこを掴んで、翼宿を睨む。
「ま、まって柳宿!」
それを止めようと立ち上がりかけたが、井宿にそれを阻止され顔を向ける。
キツネ面であるはずなのに、怖い顔をしている。
そしてそのまま、二人は拘束されてしまった。


「ハリセン?」
「せや、あれがある限り俺らはアイツには逆らえへん。どうにかしてあれを取り返せれば……」
こんな事をした理由を聞いた美朱が目を丸くする。
たしかに、側から聞けばそんな事で?と首を傾げる出来事ではある。
でも、華は知っていた。
それがどれほど大事なものであるのかを。
「なんとか、取り返せないかな。あんなのに、頭とられるなんておかしいもん!」
美朱がそう言って面々を見渡す。
「こっそり忍び込めばなんとかなりそうかな?」
華が提案するが、井宿が首を振る。
「見張りがいるのだ」
全員がうーんと頭を悩ませる。
「あ」
思いついた、と言うように美朱が声を上げた。
「ねぇ、そのハリセン取り返したら、翼宿の事教えてくれる?」




 * * *



そろり、そろりと移動をする。
かさかさと草が揺れる。
美朱、華、柳宿、井宿、幻狼、攻児がこそこそと森の中を歩いている。
「ねぇ、あの見張りをそのさっきのオオカミでなんとかしてよ」
こそりと美朱がつぶやいて、幻狼はムッと眉を寄せた。
「アホっ、そないにポンポン使えるような安い代物ちゃうんや!」
「いいじゃないのケチ! あれどうにかしないとハリセンも取り返せないのよ!」
「ケチでもなんででも、無理なもんは無理や!」
「いいから貸しなさいよ!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ出す幻狼と美朱。
その声が小さいままなはずもなく、だんだんとスケールアップしていく。
「お札とったりぃ!!!」
「あー!」
とうとう取っ組み合いのような喧嘩を始めてしまった二人に井宿が軽く錫杖を振る。
「うるさいのだ…っ」
もちろん、年長の彼は声のトーンを落とすことを忘れなかった。
しかし、
「あんたたちいい加減にしなさい!」
我慢の限界だったらしい柳宿の怒鳴り声が響く。
「ちょ、ちょっと三人とも声…」
「「「あ…っ」」」
華が慌てて声を抑えさせようとするも時すでに遅し。
見張りがこちらをみて声を張り上げた。
「いたぞ!!!」
「みたかったのだ!」
「あんたたちのせいだからね!!!」
柳宿と井宿の声に全員で弾かれたように走り出す。
見張りの声で山賊がわらわらとどこからともなく現れて追いかけてくる。
それを尻目に、全員の目指す先は頭の部屋。
こうなったら、直接どうにかしていくしかなかった。
「あそこ! あの部屋!」
何度か角を曲がり、ばったりと出会ってしまった山賊をなんとか力づくでねじ伏せ、走ること数分。
壁に大きな穴の空いた部屋が見えてきた。

「なんの騒ぎや!」
そこから、脂汗をかきながら大きなお腹を揺らし、頭が顔を出す。
そこから先は早かった。
「あ、いたー!! 幻狼のハリセン返せ!」
がぶり。
美朱が特攻して頭の腕に噛み付いた。
「いだだだだだ! このぉ…!」
反対の手で部屋の一角に鎮座されていたハリセンをとり、振り上げる。
美朱はきたる衝撃を予想して目をギュッと強く瞑った。




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