鏡花水月 | ナノ

02 山中にて

(3/22)



ある程度山を登ったあたりで、美朱のお腹が盛大に音を立てるのを聞き、華たちは昼食を取るために店に訪れていた。
(今回、井宿はどう動くのかな……)
繰り返した過去、数回井宿はここで宮廷に引き返している。
鬼宿と離ればなれとなってしまった美朱を案じている星宿様を連れてくるために、身代わりとなるのだ。
「井宿?」
「だ?」
「……なんでもない」
何かを思案するように難しい顔をしていた気がしたが、気のせいだったのだろうか。
井宿はいつもの顔をしている。
(井宿はいかないかもしれない……その場合の未来は……)
「うわぁ! 美味しそう!!」
店の中の席につき、柳宿が頼んでくれた大量の料理が運ばれてくる。
美朱が嬉しそうに声を上げた。
(あんまり私が阻止しすぎると、今度は美朱が……。どこまでなら大丈夫なんだろう……)
この先起こる事を考えて頭を悩ませる。
「いただきまーす!」
美朱の声にふと顔を上げると、店の店主と目があった。
(……あ、そういえば)
思い出した瞬間。
店主がニヤリと下品な笑みを浮かべた。
「美朱! 食べちゃダメ!!」
柳宿も目撃したらしく、慌てて声を張り上げるが時すでに遅し。
美朱は華達の分も含め、全ての料理をすでに平らげていた。
「……うぅっ!」
きょとんと柳宿を見ていた美朱が、急に腹を抑え、倒れ込む。
井宿と柳宿が慌てて席を立ち、美朱の元にかけよった。
「あぶない!!」
その隙に斧を手に取ったらしい店主が、美朱めがけて襲い掛かる。
華の声に顔を上げる井宿と柳宿だったが、襲いかかってきている店主はすでに目の前。
避けるにしても間に合うかどうか微妙な距離。
(このままじゃ……!)
間に合わないと思った華は、ぎゅっと目をつぶり小さく言葉を呟いた。
その瞬間。
店主が何かに弾かれたように、いきなり見えない壁にバウンドして、斧を取り落とした。
その隙を逃す事なく、井宿が術で店主の動きを止める。
店主は、見えない壁に顔を強打したせいか、気を失っていた。
「美朱! 大丈夫!?」
まだお腹を抑える美朱に、柳宿が慌てたように聞く。
「だ、大丈夫……いきなりたくさん食べたから、お腹いた……」
「あんたねぇ!!!」
ただの腹痛が判明するな否や、柳宿が怒って美朱の頭を軽く叩く。
美朱はテヘヘと全く悪びれた様子もなく笑っていた。


そして、そこで記憶がプツリと急に途切れた。



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