鏡花水月 | ナノ

08 覚醒

(9/22)


暗闇の中で黄金色の光が輝いている場所があった。
そこから、声が聞こえる。


ーー汝、力を求めるか。
ーー力使いたくばこう叫べ、そして捧げよ。
ーー我はそれに応えよう。
ーーかなえる願いは何事でも。
ーー叫べ。


【 開 神 】

ぱっと目が覚めた。
どうやら夢をみていたらしい。
華の身体は汗でやや湿っていた。
何度も聞いたあの二文字。
思い出して身震いする。

なぜ、どうして。
その言葉で、叶うのならば、おそらく。
「……喰われる……」

汗で湿った額を左手の甲で拭う。
一緒の部屋で寝ている美朱は、まだ寝息を立てていた。
華はもう寝る気がしなくなり、身体を起こすと、まだうっすらとしか明るさの灯らない中を忍足で歩いて部屋から出た。
「華?」
優しい声に名前を呼ばれて顔を上げれば、薄暗い闇の中からにゅっと人影が躍り出る。
「井宿」
「随分と早起きなのだ」
「ちょっとね、眠れなくて」
人影の正体は井宿だった。
「なにか不安でもあるのだ?」
「ううん、寝るには寝たの。でも起きちゃって。もう一度寝るにも、出発する時間もあるし起きておこうかなって」
「眠くないのだ? 良かったらオイラが時間になったら起こしてあげるのだ」
「ううん、大丈夫。眠くないの。ところで、井宿も眠れなかったの?」
「いや、オイラは準備のために早起きしただけなのだ」
「手伝おうか?」
「大丈夫なのだ」
そこで、準備とは術とかの方の事を指していると気づいて、あぁと納得する。
(そりゃ、やる事ないよね)
暗闇の中でもハッキリとわかる、井宿の姿。
(あぁ、やっぱり好きだなぁ……)
いま、彼がどんな顔をして喋っていて、どんな仕草をしているかなんて見えなくてもわかる。
それほど長い時間、何度も何度も最後に引き裂かれる運命を足掻こうと挑戦した。
でも、回数を重ねるごとに心は疲弊した。
だから、今回はそうならないようにすると決めた。
彼の事はこの先片思いで終わらせる、そう決意したのは前回のループの終わり。


目の前であなたを亡くした悲しみと怒りに比べれば、それは容易い事だった。
大事な人を守るために、華は今回こそは、と強く拳を握る。
それが、四神…いや麒麟の使いとしての使命なのだろう。


「華? 大丈夫なのだ?」
考え事に没頭していたらしい。はっと顔をあげれば、井宿の顔が割と近くに迫っていて、華は思わず後ずさった。
「だ、だいじょぶ…ありがとう、私も準備、してくる。またあとでね」
ドキドキと高鳴る胸を押さえて、にっこりと笑うとくるりと踵を返した。


(今度こそ、私が守ってみせる…!)




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