▼日常


「異世界の料理が食べてみたい」
そう言い出したのは誰だったか。

美朱と華は現在厨房に立っていた。

「華ちゃん、料理作れる?」
「あまり……自炊はしてたけど、凝ったものは作れないかなぁ……」
目の前にずらりと並ぶ、見たことのある材料とそうじゃない物達。
華はそれらを見て現代のスーパーに置いてある、なんちゃらの素やらルーやらがとても便利だったんだな、としみじみと噛み締めていた。
「と、とりあえず作れそうなものから、作ってみようか」
「そうだね!」


トントン。
コトコト。
ガシャン、ゴロンッ。

……最後の音はこけた美朱の立てた音である。
華はとりあえず見たことのある材料を使って、自分が食べていた物を作ろうとしていた。
卵とネギで塩味の卵焼きを作り、肉とじゃがいも、玉ねぎ、にんじんを使い、そこらにある調味料を片っ端から味見して、なんとなく雰囲気で味付けした肉じゃが。
そして、椎茸とバターの炒め物、ほうれん草と肉(ベーコンはなかった)と卵でほうれん草のバター炒め。
ミンチ(細かく刻まれた肉を代用)を使って、なんちゃってハンバーグ。
とにかく作った。
素が恋しかった。
出汁が恋しかった。
醤油が欲しかった。
なんなら、レトルトが欲しかった。
華は再度自分の生活は豊かであると認識し、少しだけ涙ぐんだ。


「できたよ」
いつも皆んな集まって食べる部屋をのぞけば、全員が着席して今か今かと料理を待っていた。
それに苦笑して、作った料理を運ぶ。
なんだか、心なしか皆んなの顔がわくわくしているように感じた華は、本当に味付けはこれで大丈夫なのか、と不安に駆られた。

「あの、ね。私基本的に自分にしかご飯作ったことなくて、向こうと勝手も違うし、あまり美味しくないかもしれないんだけど……大丈夫?」
「大丈夫よー、いざとなったら井宿が全部食べるわぁ」
不安気につぶやいた華を見て、柳宿がバンバンと井宿の背中をたたく。
その力の強さに多少眉を顰めながらも、井宿も小さく頷いてくれて、華は少しだけホッとしたような顔をして席についた。

「それじゃあ」
「いただきます」
全員仲良く大合唱。
井宿と柳宿、翼宿が華の作った卵焼きに箸を伸ばす。
ぱくりと、一口。
「あら、美味しい」
「うま!!」
「美味しいのだー」
その声に釣られて、張宿と軫宿、星宿も卵焼きに手を伸ばした。
「美味しいです!」
「良い味付けだ」
「うむ、うまいな」
「鬼宿は……なんでもないや」
食べる?と聞こうとした華だったが、美朱が作った料理のほとんどが彼の前に並べられているところを見て、見てみぬふりをした。
触らぬ神に祟りなし、である。


「華、これは何という料理なのだ?」
「え? あぁ、それはハンバーグ」
「はんばーぐ……」
「そう。ここにある物で一番好きなおかず。本当は豆腐を入れたかったんだけど、なくて」
「豆腐を入れたらどうなるのだ?」
「少し脂っこさがなくなって、柔らかいハンバーグになるよ」
「ふむ……華の住む世界には美味しいものがいっぱいなのだね」
「今回は作れなかったけど、いっぱいあるよ。ここのご飯も美味しいけどね」

ガヤガヤとみんなが楽しそうに喋る声をBGMに井宿とゆったりと喋る。
「ちょお、軫宿! たまちゃんがやばいで!!」
「鬼宿、大丈夫か?」
「ちょっと! あたしの料理が食べられないってーのー!?」
ガッターンと音を立てて椅子ごと倒れ込む鬼宿。
慌てた翼宿が軫宿を呼び、軫宿が鬼宿にかけよる。
美朱はあまりの料理に倒れ込んだ鬼宿を見て怒ったように拳を振り回している。

平和だった。
束の間の平和。

こんな日が続けばいいな、なんて。


「ねぇ、井宿」
「だ?」
「いつもありがとう」



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