▼15
(まって! 美朱……っ?)
ぐにゃりと、今度は本格的に視界が歪んだ。華は、その覚えのある気持ちの悪さにハッとして足を踏ん張る。
「華?」
華の不自然な体制に星宿が声をかける。が、華はくるりと振り返ると、青白い顔で、にっこりと笑った。
(なんですか?)
その気丈な態度に、星宿は思わず口に出すのをためらい、視線を逸らす。華は、星宿と井宿の様子を伺うように見つめると小さく頭を下げた。
(美朱の様子、見てきます)
そう言ってくるりと向きを変える。正直なところ、華は立っているのもやっとだった。身体が火照り、嫌な汗が出てくる。それに皆が気づく前にここから去ろうと足を懸命に動かす。
(あともう少し……っ)
思わず心の中で無意識にそう思いながら、足を進め、そして華の割り当てられた部屋が目の前に見えた瞬間。華はその場に倒れこんでしまった。





暫くして落ち着きを取り戻し、美朱が外に出るとなにやら華の部屋がある方が騒がしく感じた。美朱が首を傾げながらそちらへ行くと、華の部屋のまえで侍女達が群がってなにやら混乱した様子で走り回ったり、ざわざわと騒いでいた。
「どうしたの?」
「あ……朱雀の巫女様……」
1人輪から飛び出た侍女に話しかける。
「実は……この方が倒れていたのを今しがた発見しまして……」
侍女が身体をずらして、道を開けた。美朱がそこから覗き込む。そこには。
「華ちゃん!!!???」
青白い顔をして倒れている華の姿があった。
「急いで星宿を呼んで! お願い!」
「は、はい!」
美朱の声にバタバタと数人の侍女が走り去る。美朱は、華の元に駆け寄るとその額に手を当てた。
「ひどい熱……。華ちゃん、華ちゃんしっかりして!」
華の額は燃えるように熱かった。美朱が必死に華の意識を浮上させようと声をかけるが、うんともすんとも言わない。それどころか、身じろぎ一つしない。
美朱は恐ろしい考えに至りそうになり、慌てて頭を振った。
「華ちゃん!」
「美朱!」
後ろから数人が走ってくる音が聞こえた。侍女が星宿を連れて戻ってきたのである。そこには井宿の姿もあった。
「星宿! 華ちゃんすごい熱なの!」
駆け寄ってきた星宿と井宿。井宿が美朱の言葉に反応して、華の額に手を当てる。
「ひどい熱なのだ……。すぐに華ちゃんを部屋に運ぶのだ!」
「私は侍医を呼んでくる。美朱、心配するな」
井宿がぐったりと横たわる華を抱え上げ、星宿が心配そうに眉を寄せる美朱の肩をそっと支えた。
「星宿……ありがとう」
美朱は華を見たままつぶやく。井宿に抱えられ、移動する華の顔はやはり白く、美朱は彼女のここ数日の行動を思い返し、青くなった。
星宿は侍医を呼びに行き、いない。美朱は、そのまま華と井宿についていくように走ってあとを追うと、彼女が一体ここの世界にきて、何度こうやって走ったのか、激しく身体を動かしたのか、その回数を数えていた。
「井宿……」
「だ?」
華を寝台へと下ろした井宿は美朱の呼び声に顔を向けた。
「華ちゃんと……こっちに来てからずっと一緒だった……?」
「……一時的に離れていたが、それ以外は一緒にいたのだ」
なら、と美朱は井宿の顔を見つめた。
「華ちゃん……走ったり、何か身体に負担かけるような事……した? したとしたら、何回したか覚えてる?」
「それがどうかしたのだ?」
「……あのね、華ちゃん身体が……」
(美朱……)
ぱしっと小さな音がして、美朱の声が途切れた。美朱の口には華の手が軽く当てられている。
「気が付いたのだ?」
井宿が華の額に手を当てた。相変わらずそこは酷く熱い。華は、こくりと頷くと美朱の方をじっと見つめた。
(大丈夫だから……ね?)
「だ、大丈夫な訳ないでしょ!?
大丈夫って言って……華ちゃん……っ」
美朱が唇を噛みしめる。これ以上の事をここでいうのは華の事を思うと憚れた。
(いまは……あの人もいないし、状況違うでしょ……?)
血の気の失せた顔で微笑めば、美朱がぽろりと涙をこぼす。井宿はそれを口を挟む事なく傍観していた。
「無茶……しないで……。華ちゃんまで側からいなくなったら……私……っ」
(大丈夫、絶対守るから)
ぎゅっと美朱の手を握った。涙ぐみ、心配そうにこちらをみる美朱に、華は大丈夫と言い続ける。
ほどなくして医者を連れた星宿が戻ってきて、そこで美朱と華の話は終わった。



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