素直にならないこどもたち
2012/02/05 01:16

□ディエジョニ

相棒のジャイロ・ツェペリと口喧嘩をしてどれくらいたっただろう。
ジョニィ・ジョースターは随分と長い間その場所に座り込んでいる。
愛馬のスロー・ダンサーを連れてこなかった事をひどく後悔した。
車椅子を借りるにも肝心の人がいない。
さてどうしようか、と考えたとき遠くから誰かが馬にまたがりこちらに来るのがわかった。

(…最悪)

白い馬でレースに出場しているのは一人しかいない。
イギリス出身の天才ジョッキー、ディエゴ・ブランドーである。
ジョニィは軽く舌打ちをした。
また何かしら皮肉をいわれるのだろう。
ならば、せめて顔を見ないようにと背を向けた。

「おや…?誰かと思えばジョースターくんじゃあないか…こんなところでどうした?ジャイロは近くにいないようだが…」

「…お前には関係ないだろ、さっさと行けよ」

「フン、こんなに面白い光景を逃すと思うか?ジャイロが一人でこっちから来るので、なにがあったのかと思えば…」

ディエゴがにやりと笑う。
薄く開いた唇からは犬歯が覗いていた。
軽い動作で馬から降り、ジョニィのもとまで歩み寄る。

「お前、このままじゃあもといた場所に戻れないな」

「…うるさい」

「あの様子だとジャイロの奴、しばらくこっちに来る気配は無かったぜ」

「…」

やはり、相棒を相当怒らせてしまったらしい。

(…どうしよう…)

ジャイロに嫌われたら、そう考えたらじわりと涙が浮かんできた。
慌てて腕で乱暴に拭う。
この男にだけは泣いている姿なんて死んでも見られたくない、とそのまま俯いた。
すぐそばに立つディエゴの視線が痛いくらいに伝わってくる。
さっさと何処かへ行ってしまえ、と考えていると体が宙に浮かび横抱きにされていた。

「…なッ…!!!離せ!!!!」

「…大人しくしていないと喰い殺すぞ」

冷たい視線にびくりと体が震えた。
構えていた腕を掴まれ、タスクを封じられる。

(くそっ…!!こいつ、何を…!)

困惑するジョニィをよそに、ディエゴはジョニィを抱えたまま馬に乗り、ジャイロが行ってしまった方へと向かった。

「…どういうつもり?」

訝しげにディエゴを睨み付けながら、ジョニィは言う。
お前にぼくを助ける義理なんてないだろ、と続けるとディエゴはクツクツと喉で笑った。

「さあな…ただ、お前が本当にクーガーなんかに喰われて死ぬのはあまりに勿体ない、そう思っただけだ」

「…」

ばかじゃないの、と呟き、ジョニィは体をディエゴにあずける。
ディエゴは驚いたようにジョニィを見下ろしたが、何も言わずにそのまま体を抱き寄せた。
その後、ジャイロのもとへとたどり着くまでの間、二人とも無言のままだった。

ーーーー
素直にジョニィの手助けが出来ないディエゴと、素直にお礼が言えないジョニィ



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