※夜の訪問者
2012/06/07 01:14
夕食を終え、自室に戻るとジョニィはベッドへ倒れ込んだ。
昼休みに言われたあの言葉が頭から離れないでいる。
ベランダからは涼しい風が吹いているはずなのに、顔が火照っているような気がした。
(…あんな言葉鵜呑みにするなんて、馬鹿みたいじゃないか)
事の発端はジャイロの一言だった。
いつも通り些細な事でディエゴとジョニィが口喧嘩をしているとジャイロがこう言ったのだ。
「…なあ、邪魔するようで悪いがちょっといいか?Dioに聞きてーんだが…おまえさんジョニィの事が好きなのか?」
ピタリと言い合いを止め暫く二人ともフリーズした。
そんな事あるわけないだろ、とジョニィが反論しようとすると、Dioがこう言い放った。
「ああそうだ。俺はコイツが好きだ。何か文句でもあるのか?」
「別に文句はないが…強いて言うならもう少し静かにしてもらいたいんだがな…」
「コイツが俺に喧嘩を売ってくるのが悪い」
「はあ?!それはこっちのセリフだけど。君がいちいち突っかかってくるからだろ」
そこからはいつもと同じように言い合いが始まって、ジョニィは少し安心した。
(Dioのあんな顔見たことない…)
目を閉じると鮮明に蘇るあの横顔。
好きだ、と言ったあの真剣な眼差しを思いだし、ジョニィはシーツに顔を埋めた。
結局、ディエゴがホット・パンツに肉スプレーをかけられるまで口喧嘩は続いた。
放課後、一緒に帰ろう、と言ってきたディエゴの誘いを断ってジョニィは逃げるように学校を出た。
後ろでディエゴが何か言っていたような気がするけれど何も聞こえなかった。
(ぼくのことが好きだって?あり得ない!全然笑えないね)
食事をしているときもずっとその事ばかりが頭を占めていて食べることが出来なかった。
「…明日からどうやって会えっていうの…」
顔が熱い、思考がまとまらない。
はあ、とため息をついてベランダに出る。
空には星が輝き、夜風が火照った頬を冷ました。
とりあえずシャワーを浴びよう、そう思い直し、ベランダに背を向けたその瞬間背後から抱きしめられ、口元を手で覆われた。
「……ッんう!!」
「待て、騒ぐなよ…家族に聞かれても良いなら構わんが…」
聞き覚えのある心地よいテノールが囁いた。
(うそ)
手が外され後ろを勢いよく振り向くと、今まで頭を占めていたディエゴがそこにいた。
「こんばんは、さっきぶりだな」
「……何しに、来たの…」
「何しに…か」
こて、と首を傾げて、特に理由は無かったんだがな、とディエゴは答える。
触れられている場所が妙に熱い。
「…離して」
「…離したら逃げるだろうが」
「……」
ジョニィが黙りこくるとディエゴは体を離し前へと回ってジョニィの手を握った。
「…単純にお前の顔が見たくなったんだ」
「…」
「ジョニィ……昼間言ったこと…本心だ」
愛してる、と熱っぽく見つめてくるディエゴの瞳を見ていられず、ジョニィは下を向いた。
(顔…熱い、手も……)
きっと自分は可哀想なくらい真っ赤な顔をしているんだろう、ジョニィはそう思いながらぎゅっ、と目を閉じた。
「もう…隠すことは止めたんだ。これ以上気持ちに嘘はつけない」
ディエゴは膝まづきジョニィの手の甲にキスをする。
「…ッ!」
「結婚を前提に…付き合ってほしい」
見上げるとうろうろと視線をさ迷わせるジョニィと目が合い、ディエゴは困ったように微笑んだ。
「…別に、お前を困らせたいわけじゃあない…返事はいつでもいい…」
ただ、とディエゴは言うとすくっと立ち上がりジョニィを抱きしめる。
そしてそのまま首筋へと噛みついた。
「痛った…!!」
「…印をつけておく」
他の奴に取られないようにな、そう言い残してディエゴは窓から去っていった。
ジョニィはしばらく唖然としていたが、我にかえり一世一代のプロポーズを受けたことに顔を赤らめた。
(…心臓…うるさい…)
噛み痕のついた首筋に触れ、そのままぺたりと床に座り込んだ。
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