酒は飲んでも飲まれるな
2012/02/25 00:45
□ディエジョニ
その日、ジョニィは無性に酒が飲みたくなり、宿の外へ出た。
ジャイロは買い出しに出ていて部屋にいないので、口うるさく言われることもない。
酒場で飲むのは久しぶりだな、と思いながら宿のすぐ側にある店へと入った。
中はそこそこ混んでいて、車椅子で進んでいくのは困難だったが、奥に進んで行くうちに隅のほうに一つだけ空いている席を見つけた。
相席だったが、この際文句は言っていられない。
あの、と声をかけようとして、ジョニィは固まった。
そして盛大に後悔した。
席に座っている人物は、ジョニィがこの世で一番嫌いな、ディエゴ・ブランドーだった。
(うわ、最悪)
すぐに方向転換して店を出ようとしたが、大声で呼び止められる。
「ジョースターくんじゃあないか!」
「……Dio…」
大分酔っているようで、いつもより随分とテンションが高い。
妙に興奮していて声も上擦っている。
ディエゴはふらふらと立ち上がってジョニィのもとまで歩いてきた。
「…ん?君一人か?珍しいな」
「…別に、いつもジャイロといるわけじゃない…」
「そうか…酒を飲みに来たんだろう?どうだ、一緒に飲まないか?」
ジョニィは戸惑ったが、奢るぞ?という言葉に誘われて、ディエゴと一緒に酒を飲むことになった。
普段なら確実に断っているが、今日は一人で飲む気分ではなかったから思わずOKしてしまったのだ。
(…まあ…どこの誰かも分からない知らない奴と一緒に飲むよりはマシかな…)
ジョニィはそう思い直し、ディエゴの向かいの席へとへ車椅子を進めた。
「…じゃあ遠慮なく」
「ああ、どんどん飲め」
酒のせいか、普段のディエゴからは考えられないほど締まりのない顔をして笑っている。
(…コイツこんな顔もするのか)
ディエゴが酒を注いでいるのを見ながら、ジョニィはグラスに口をつけた。
暫くして世間話をしながら酒を飲んでいると、突然ディエゴがジョニィの顔を見つめはじめた。
酔いすぎて頭が回っていないんだろうか、と心配になり手をふりながら声をかける。
「…おい、お前…飲み過ぎなんじゃあないか?顔赤いぞ」
「……ニィは…」
「え?」
「…ジョニィは綺麗だな」
「……………は?」
する、とジョニィの髪の毛に触れて熱っぽく、綺麗だ、ともう一度呟く。
何を言ってるんだ?コイツは、と混乱するジョニィをよそにディエゴはジョニィの手を取って口付ける。
「…?!!ちょっと、何して…!!!」
「ン…照れてるのか?…かわいいな」
「…ッ止めろよ、手を離せ!」
「ジョニィ」
急に真剣な声で名前を呼ばれ、びくりと体が強張る。
「そう怯えるなよ…まだ何もしないさ」
「……君に、男の趣味があったなんて知らなかったよ…」
ジョニィがそう言うと、ディエゴはきょとんとしてから、フフ、と笑った。
「…それは違うな、別に俺は男が好きなわけじゃあない」
「…?じゃあ何なのさ」
す、ともう片方の手が伸び、ジョニィの唇に触れる。
「…お前が好きなだけだ」
昔からずっと、そう続けるディエゴの声は嘘をついているようには思えなかった。
段々と顔が熱を帯びていくのが自分でも分かる。
黙ったまま俯いていると、唇に触れていた手で顎を持ち上げられる。
気づけば、ディエゴの顔がすぐそばにあった。
逃げる間もなく、そのままそっとキスをされる。
「…ん…!!?」
「…ジョニィ」
愛してる、そう囁くとディエゴはテーブルに俯せになり、そのまま寝てしまった。
ジョニィは数秒間呆然としていたが、やがて正気に戻り口元をごしごしと擦る。
「いきなり何なんだよ…!!」
文句を言おうにも本人は寝ているし、逃げなかった自分にも嫌気が差した。
(ああ、クソ!)
明日文句を言ってやる、と心に決めグラスに余った酒を飲む。
その後ジョニィは、ディエゴを放置してそのまま店を出た。
次の日、ディエゴは昨日の出来事を全く覚えておらず、ジョニィに殴られたのであった。
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