・trm夢(おかゆちゃまさん)
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デザートはベットルームで




「まじか…」
数字化された自分の重さの値が、目の背け様がない現実を突き付けてくる。
また、体重が増えてしまった。先週体重計に乗り「痩せよう」と決意したというのにこのざまだ。最近体重が増えてしまった原因はわかっている。今日こそは断ろう。ぐっと拳に力を込め、そう意気込んでいると「なまえ、」と私の名前を控えめに呼ぶ諸悪の根源の声が。

「ああ、なまえ。やはりここに居たか。よかった今日はな、」
「つ、鶴見さん!!」
言葉を遮るように彼の名前を呼ぶと、にこにことご機嫌そうな笑顔からきょとんとした顔に移り変わった。普段はあらゆる人を誑し込んできたであろう怪しくも美しい雰囲気を醸し出しているにも関わらず、こんなにも愛らしい表情まで浮かべるのは些かずるすぎる。こんな魅力的な人が本当に人間として存在していていいのだろうか。じゃなくて!
「あの、申し訳ないんですけど私、甘味はしばらく我慢する方向にしたくて…」
そう、私が太ってしまった原因の七割、いや八割は鶴見さんから餌付けをされているせいだ。それだけではなく日々の怠惰が祟ったものだろうという辛辣な指摘は受け付けない方向でお願いしたい。今日も今日とて何処から見つけてくるのか、老舗の和菓子屋さんで 買ってきた中身が入っているであろう紙袋を指差し、遠回しにお茶のお誘いの断りの意を示す。

「何故?」
「……大変お恥ずかしい話、その、お腹に肉がついてしまいまして」
「どれ、見せてみなさい」
「えっ、」
「なまえ、」
「うっ」
思いがけない言葉に驚愕しながらも有無を言わせない鶴見さんの命令に逆らえるはずもなく。恐る恐る服の裾をたくしあげて見せると居た堪れない気持ちでいっぱいになる。
「もう、いいですか……!」
「もう少し」
自らの手でたくし上げて痴態を晒しているという事実身体を震わせながらただただ時間が早く過ぎることを切に願う。
外気に触れて冷たくなっていく感覚が妙にぞわぞわしてしまって耐えるようにぎゅっと目を瞑ってみせるが、数秒待っても「よし」という解放の言葉は聞こえてこない。薄っすらと目を開けて鶴見さんの様子を伺うと腹部を品定めするようにじっと見つめた状態で静止していた。そんなにぽっこりとしたお腹を凝視するのはやめて欲しい。恥ずかしさのあまり死んでしまいそうだ。
なんだこの羞恥プレイはと下唇を軽く噛み締めながらただひたすらに「早くこの状況から抜け出せますように」と願い続ける。

「ふむ」
「ぎゃっ!なにするんですか!!」
真剣に見詰めてきたと思ったらあろうことかお腹の肉をつまんできたものだからかわいくもなんともない悲鳴を上げてしまう。
「確かに、少し厚みが増したか?」
「ぐっ…ひ、ひとが気にしていることをよくもまああっさりと…!!」
「はは、そう睨むな。多少肉付きがあった方が触り心地がいい、と言いたい所だがそれでもお前は納得しないのだろう?」
女心とは難しいものだなと緩く微笑む鶴見さんのお顔がなんだか見てはいけない物のように思えてしまい、顔をぷいと横に背ける。全くもう、そんな美しく笑っている場合ではないというのに。

「仕方ない、この饅頭と団子は月島たちに譲るとしよう」
なんとも呑気な発言とともに余分についてしまった肉を摘んでいた手が解かれた。と、思いきや今度はその指の腹で腰のラインをつつ、となぞられ上へ上へと責め立てる。
その擽ったさと、抱いてはいけない劣情の芽生えを押さえ付けるように、押さえていた服の裾を下ろそうとすると躾のなっていないペットを窘めるような声が飛んで来た。
「こら、誰が手を降ろしていいと言った?ちゃんと持っていなさい」
「でも鶴見さん、っ!」
「どうした?」
「や、どうしたじゃなくて…!あの、いい加減恥ずかしいいんですけれども」
「そうか」
「そ、そうかって…!」
「すまないが…私はお前の頬が羞恥で、熟した果実のように赤く色付いていく様子を見るのが好きでね」
この人に口答えするのは馬鹿のすることだと頭ではわかっていても口に出さなければやってられない。一音一音ゆったりと紡ぐ鶴見さんの唇の方がよっぽど美味しそうな果実のようなのに、と的外れな不満を頭に思い浮かべながら「悪趣味ですよ」と半泣きで訴える

「もっと悪趣味なことを言ってあげようか?」
わざと色気を帯びた低く響く音を遊ばせながら耳元に口が寄せられた。

「本当はもっと泣かせてやりたい。艶々とした実の上に雫を滑らせ、そのみずみずしく清らかな味の果実を私だけが食べ尽くしたい、その味を私だけが知っていたい。…私だけが、じくりと熟れた食べ頃の甘さを舌で遊ばせながら全て平らげてしまいたいのだ。」
鶴見さんの目が、声が、吐息が、私の全身を余すことなく犯しているみたいだ。彼に全てを委ねたい。食べてもらいたい。理性がぐらりと溶け落ちていき、もう彼に滅茶苦茶にされたいという欲で脳が支配されていく。艶めかしい彼の声が空気を揺らす度、全身に張り巡らされている神経がぴくぴくと痙攣するのがわかった。
不本意ながら鶴見さんの思惑通り、じわりと目尻に涙の膜が張られる。それがこぼれ落ちないようきっと睨みつけて見せると満足げに笑みを浮かべられてしまうもんだからこちらとしては大変面白くない。

「確かにここ最近お前と甘味を口にする機会が多かったかもしれないな」
「美味しいといって甘味を頬張る名前を見るのが嬉しくてつい、な。だが、君が体型を気にしていた事に気付けなかったのは私の配慮が足りなかったかもしれない。すまないね、」
目尻の水気を親指の腹で拭いながら「私を許してくれるか?」と叱られた幼い男児のように眉を下げ、こちらの様子を伺うように覗き込まれてしまってはもう、私の中に「許さない」なんて選択肢は存在しない。こうして、今日もまた、鶴見さんに絆されてしまう。

「なまえを肥えさせた責任は私にある。ということは当然その手伝いをする義務があるという事だな」
「手伝い、ですか」
「なんだ不服そうだな?」
「いえ、不服、というよりは」
その「手伝い」とは一体何を指しているのか。声に出して尋ねるべきか思い悩み、口をもごつかせていると、声に出していない質問の答えが投げてもいないのに返ってきた。

「今日はお前が動きなさい。いいね?」
鶴見さんの言葉を耳に吹き込まれた瞬間、その「言いつけ」を身体に叩き込まれたかのように背筋がぴんと伸びる
なにをするときに自ら動けというのか、悲しい事にそんな疑問、彼に質問出来る程、私は幼くも、初心でもない。





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