・嫉妬sgmt夢(ゆゆさん)
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荒治療とはいかないけれど





「…もっと優しく出来ねぇのか」
「残念ですがこれが今出来る最大限の優しさです」
第七師団の追っ手から逃れる最中、尾形さんが腕に怪我を負った。幸い狙撃手の命である銃を支える力に支障が出るほどの大怪我までとはいかなかったが出血の量がお大袈裟に見せ、不安を煽られる。
現代社会という平和のぬるま湯に浸かっていた私にとって血が垂れ流しになるほどの怪我は十分大怪我の部類に入るのだが周りの皆はがかすり傷だというのだからこちらがくらりとしてしまいそうだった。
見慣れたくもない赤黒い色に目を背けたくなりながらも順序よく手当てをする。金塊争奪戦の中で私が手助けできることといえばこれくらいのものだ。泣き言は言ってられない。

「…」
「…どうしました杉元さん?」
こちらが直視しがたい傷口と真剣に向き合っているというのにむっすりとぶすくれた表情の杉元さんが視界をちらつき、集中力を奪っていく。

「…〇〇さんは俺と尾形どっちが大事なの?」
「えっと、現時点では尾形さんですかね?」
なんだそのめんどくさい彼女みたいな台詞は、という言葉は寸でのところで腹の奥に押し戻した。
口を尖らせむっすりと拗ねた顔をする杉元さんは正直言って物凄くかわいらしいだが、彼女にするにはちとガタイが良すぎる。
時々思うが不死身と呼ばれる男にしては些か女子力が高すぎやしないだろうか。少しきゅ、と締め付けられる心臓の軋みを感じながらこれがギャップ萌えという奴かと呑気な頭で考える。もし現代に杉元さんがいたら女の子にモテまくりなんだろうなぁ。というか杉元さん顔がいいから今だって私が見ていないところで数多の女性に口説かれているかもしれない。

「なまえちゃんってときどき残酷なことするよねぇ」
包帯を巻く手を休ませることなく受け答えしていると胡坐をかいた片膝に肘をついた白石さんがしみじみ言う。
手当てしている人間に対して残酷とはどんな言い草だ。遺憾の意を表情筋に滲ませていると「男心がわかってないななまえちゃんは」と追い打ちで非難の言葉が。

「人命と男心だったら前者を取るでしょう普通は」
「手厳し
眉をへにゃりとハの字にして口を尖らせる白石さんは杉元さんに負けず劣らず女子力が高い。それを思うと女の私の女子力とは…と少し悲しい気持ちになっているとすぐ隣から「ははぁ、」と聞き慣れた嘲笑が。

「そんなに怪我を負いたけりゃ、一人で来た道戻って、奴らの群れに名誉の単騎出陣でもしてきたらどうだ?もっとも、不死身と呼ばれるお前にとっちゃかすり傷一つこさえてくるのが一苦労だろうがな。」
「それとも俺が一生治らん傷をつけてやろうか?」
「…別にお前と同じ傷が欲しい訳じゃねぇよ。気色悪いこと言ってんな。」
「お前がつけたくせに酷ぇ言い草だな」
自らのの傷に目が行くよう、指でとんとんと軽く触れてみせる尾形さんはなんだか、凄く活き活きとしていた。嬉々とした尾形さんに反し杉元さんは目の鋭さを増していく。
人を馬鹿にすることとなるといつもの口数の少なさが嘘のように饒舌で、ほんとこの人いい性格してるなぁと一周回って感心しながらも、今にも掴みかかりそうなオーラを醸し出している杉元さんに内心ハラハラと肝を冷やす。

嫌悪している男が手をかけてもらっているのが気に食わないのか、私の中の自分の優先順位が尾形さんより劣っていたのが悔しかったのか。煽る尾形さんの要らぬ援護射撃も相まって、弁解の言葉を述べれば述べるほど杉元さんの顔の凄みは増していく。私が幼い子供だったら今頃泣いて逃げ出しているレベルだ。
犬猿の仲とはこの二人のことをさして言うんだなと呆れながらも真水で傷口を洗い流してやると普段はポーカーフェイスの尾形さんの表情が痛々しげに歪む。
「っ、」
「ああほら、煽ってる余裕があるくらいなら大人しく横になっていてください」
「…ああ、」
額にじんわりと滲む汗を手拭いで軽く押し当てるようにふき取ると意外にもされるがままでいる。いつものの尾形さんだったら手拭いをぶん取られてしまいそうだけれど。相当痛みが効いているのだろうか。
「甲斐甲斐しく世話を妬く幼妻みたいでなんかやだ…」
「何言ってるんですか」
この一瞬のうちに杉元さんの脳内ではどんな奇怪なストーリーが構築されたんだろう。隣で駄々をこねる逞しすぎる幼子に軽く頭をチョップすると「いたぁい」とかわいらしい女の子のような反応が返ってきた。めそめそする杉元さんの姿は「不死身」とは程遠いもので少し吹き出してしまいそうになる。

「なまえさんは俺のこと嫌いなんだ…」
「だからなんでそうなるんですか」
「めんどくさい彼女か」今度こそ耐え切れずに心の声をすんなり外へ放してやると「めんどくさいって言われた…」と体育座りでのの字を書かれてしまった。

「俺だって怪我してるのに…」
「怪我っていうかかすり傷でしょう」
小さな傷とはいえ消毒はしっかりしなければいけないとは思うが杉元さんの顔や腕に見えるものは現代で活用される絆創膏を貼っておけば事足りそうな物ばかりだ。どちらかというと顔に大きくかかる戦さの勲章や、元からある身体中の古傷の方がよっぽど痛そうだ。
「そうだけどさぁ、」
「もう!いい大人が駄々こねないでください!」
どうして私は自分より屈強な男性に対して幼い弟を嗜める姉のような台詞を言わなければいけないんだろう。頭の隅っこの方で疑問に思いながらも「あとでちゃんと手当てしてあげますから!」と言葉を添えると読んで字の通り、ぱぁっと花が咲いたような笑みが返ってくる。
「ほんとぉ?」
「え、ええ、ほんとにほんとです」
きゅん、
こちらを覗き込むような上目遣いで此方を見据える杉元さんに思わず胸が高鳴る。なんだ、きゅんって、
なんで、そんな嬉しそうな顔を見せるんだ、

「だ、だいたい尾形さんが気に食わないからってこんな時まで食ってかからなくてもいいじゃないですか」
なんだか見ていられなくて目線を杉元さんから逸らす。胸のざわめきを悟られないように言葉を矢継ぎ早に問い掛ける
「…」
「あー、違う違う。なまえちゃん、杉元は尾形ちゃんがどうこうってだけじゃなくて自分以外の男に手を掛けてるって言うのが気に食わないだけだよ」
「白石!」
「は?」
「それってどういうことですか、」そう言って真意を問い正す前に、答えがわかってしまった。

「杉元さん、顔真っ赤」
「っ!」
視線を彼の方にずらすと目に見えて鮮やかにを彩る赤。視線に気付き口元を腕で咄嗟に隠したようだったがそれもあまり防御の意味をなさず、こちらからはに色刺す血色の良い赤が丸わかりだった。
「や、これはちが、そのっ!あ、暑くて」
「そろそろ日が落ちそうですし寒いと思うんですが、」
「今日は一日歩き通しだったから!」
「はぁ、まぁそうでしたけど、」
「急に止まると汗掻くよね!」
「休憩し始めてからだいぶ時間経ってますけどね。」
「…なまえさん意地悪しないで」
「人聞きの悪い。意地悪なのはどっちですか?そんな思わせぶりな態度とっておきながら誤魔化して…私のせいにしないで下さい」
再度問い正すように「顔赤くしてどうしたんですか?風邪でも引きました?」とわざとらしく感に触るような物言いでふっかけてみると

「なまえさんのせいで、頭くらくらするから。だから…あとで看病してよね、」
帽子のつばを深く下げ、何かを悟られまいと歩みを早めて外へ出る彼の後ろ姿をぼんやりと見上げながら今すぐあの広い背中に抱きついてやりたい気持ちでいっぱいになってしまった。
「ねぇ、尾形ちゃーん、俺ら何見せられてんだろうね」
「…俺に聞くな」
「すみません、ちょっと行ってきます」
「しばらく帰ってこなくていいからねぇ
茶々入れにも受け取れる白石さんの後押しの言葉を受け取り外へ出て行った杉元さんの後を追う。


「杉元さん、」
「えっ!?なまえさんっ!?ちょ、な、なに」
「すごい、臭い台詞言ってみても良いですか?」
「くさ、え?待って、この状態はちょっと、」
離れて欲しいかなーなんて、と口をもごつかせる杉元さんの顔は背中に抱き着いている今の状態では正面から見ることは叶わないが、きっとさっきより顔の赤みが増しているんだろうなぁ。彼のかわいらしい姿をみたいという気持ちは勿論あるが自分の今の顔は負けず劣らず赤く彩られているだろうから。
「それは聞けないお願いです。」
「ええ…」

広い背中に顔をすり、と押し付け、抱き締める腕の力を強めると、動揺するように身体がぴくりと揺れた。
「あのかわいい杉元さんを見てから心臓がきゅってなってずっとどくどくうるさいんですけど、」
「これって恋の病ですか?」
たぶん、治してくれるの杉元さんしかいないと思って、咄嗟に出て来ちゃったんですけどと口にした所で一気に羞恥心が襲ってくる。随分とまぁ大胆に出てしまったものだ、半ば後悔しながらも口にしてしまったからにはもう巻き戻しは叶わない。じわじわと襲ってくる羞恥心を押さえ込むようにぎゅうぎゅうと顔を押し付けていると手首を掴まれた感覚とほぼ同時に視界がクリアになる。


「なまえさん、ちゅーしても、良い?」
「それで痛みが治るなら、」
合わさった唇の感触が存外柔くて落ち着かない。ゆったりと瞼を開けると至近距離で揺れる杉元さんの瞳が。一度合わせた子供じみた口付けのはずなのに唇が離れた瞬間ほぅ、と漏れた互いの熱い吐息が肌に触れくすぐったい。どくり、どくり、治るどころか胸の軋みは強まるばかりだ。

どうやら不死身の彼に治療は向いていないらしい。


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