先着一名

スマホを片手でいじっていると不意にスマホを持っていない左の手持ち無沙汰な手が軽く持ち上げられる。
何を企んでいるんだろうと思いつつ画面に夢中になっている振りをしながら少し尾形さんの方を盗み見る。
手をじっと見詰めたかと思えば指の付け根から指先まで撫で上げてみたり自分の指を絡ませて恋人繋ぎにしてみたり。
一体何をしたいんだろう。暇極めすぎたのか尾形さんは。謎な行動に頭を捻らせながらも特に害があるわけでもないのでそのまま好きにさせておく。

無反応だったのが面白くなかったのか今度はちゅ、ちゅ、と軽くリップ音を立てながら手のひらや甲、指先に唇を落としてきた。不意打ちの感触に少し身体をびくりと震わせてしまったがあくまでスルーを決め込む。

SNSの口コミを眺めながら今度給料日になったらこの化粧品買ってみようかな…いや、でもその前に髪も切りたいなと意識を完全にブルーライトの海へ寄せているとぎりりと指先に痛みが走る。

「いった!?」
この男は本当になにを考えているのか理解出来ない。急に指を噛んで来るって。急でなくても指を噛む意味がわからない。驚きのあまり「なにすんの!?」と声を大にして言うとただ一言「予約」とだけ。すると尾形さんは満足したのか風呂入ってくると短く言い、脱衣所に向かった。


なに意味のわからないことをと眉を顰めながら傷を労る様に噛まれた指を摩ると、薄らと噛み跡が残っていたのは左手の薬指で。時間差で先程の言葉の意味をようやく理解し、顔を中心に熱が集まった。

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