六畳間の契り

近所に住む野間くんは幼稚園の頃からの付き合いでいわゆる『幼馴染み』と呼ばれる間柄だった。

彼は大家族の長男でいつも周りには弟くんや妹ちゃんたちがきゃっきゃと楽しそうな姿を見せていて、シングルマザーの母の元ずっと一人っ子で育ってきた私からしてみればその光景はとても羨ましく「賑やかでいいね」と彼の前で零したことが多々ある。野間くんは「うるさいだけだぞ」と淡々と返すだけだったけどそれでも私にとってはいろんな音で溢れる我が家になによりも憧れていた。


ある日私に家族が突然増えた。それも一人ではなくたくさん。父親が一人に弟が三人、妹が一人、そして、同い年の『兄』が一人。
元々昔から交流があった野間くんのお父さんとうちの母が片親同士、再婚することになったのだ。顔を合わせる度どこか仲睦まじい雰囲気を醸し出していたため結婚すると口に出されたときはさして驚きもしなかったが家族が増えるんだということに少し戸惑いがあった。
二人で暮らしていた狭いアパートから一人一部屋ある一軒家へランクアップし、引っ越して数日はその広さに少し落ち着けなかった。元のちょうどいいサイズ感の我が家がほんのちょっとだけ恋しい。

ぎしりと敷布団では聞こえることの無いベットのスプリングが軋む音がする。

「なぁ、名前」

「兄貴とセックスすることは悪いことだと思うか?」

表情をピクリとも動かさずに私を見下ろす兄の感情を読み取ることは叶わなかったが、「私は今からこの人に抱かれるんだな」という推測は容易に出来た。ここで素直に悪いことだと答えることは『いい子』のすることだと思ったから私は返事の代わりにその仏頂面を張り付けた顔を両手で包み込むように引き寄せ、自分より幾分かかさついた、少し分厚い唇にそっと口付けた。
「はは、良い妹を持って兄ちゃんは幸せもんだな」
滅多に揺れ動くことのない仏頂面を私が崩してやったのだと悦に入る間もなく、さっきのキスの仕方は間違ってると言わんばかりに荒々しく唇を奪われ息を呑む。

嗚呼、これで、やっと家族になれるんだ。

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