デブリと過ごす一週間。
大きな掌が背中に回る。こっちも僕よりも広い背中に手を回して、少し高い位置にある彼の髪に手を添えた。そっと撫でれば肩に埋まっていた顔がピクリと動いて、なにかを隠すみたいにまた深く埋められた。
大人なのにかっこ悪いとかそんなことは頭の中から抜け落ちて、小さな子供みたいに僕に縋りつくその人に「僕が守らなくちゃ」と思ったことが、不思議とストンと自分の中に落ち着いた。

「ありがとう」

泣いているのかと思っていたのに、その声は予想よりも幾分がしっかりと声帯を震わせて輝の元へと届いたので安心したと同時に(大人って、ずるい)届かないものを見せられた気がして背中の手をぎゅっと握りしめる。
ありがとう、ってなんですか。なんでそんな声で、そんな顔して(見えないけど)、そんな、そんな子供みたいに、大人のふりをするんですか。
言いたいことは一杯、どんどん湧いて出てくるのに、大きなあたたかいその手が迷うみたいに抱きしめることもなくこちらを引き寄せるから、結局言葉は一つも形にならずに、さっきよりもっと、もっとと彼を抱きしめる力を強くする。
大きな体だ。輝の小さな体とは違う。大人の体だった。
そんな大きな体を自分に合わせて膝をついて、逃げるみたいに丸まって、隠れるみたいに顔を埋めているのに、

「いてくれて、ありがとう」

なんですか、なんですかそれ。
貴方は、いつからそこにいたんですか。テレビの中でしか知らない時代の、新聞の記事でしか知らないあの日から、ずっとずっと止まったままで、もう出会うことのない幻影を貴方は何時まで瞳の奥に閉じ込めていようとしたんですか。
たくさんの仲間がいたはずで、たくさん貴方を愛した人がいたはずで、全部に「ありがとう」って返しながら貴方は、どこを見てたんですか。
こんな小さい僕に、何を見つけようとしたんですか。

「フィディオさん」

止まった時間は動きましたか。会いたい人には会えましたか。後悔の日々は終わりましたか。
僕は、貴方の笑顔を見れますか。
ああ、でもその前にその星空みたいな瞳に10年分の気持ちを込めて。

「ないてください」


(いちにちめ)


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