家族みたいだ
こんな言葉を知っているかカイル。
炬燵の中で本を読んでいたジューダスが唐突に向かいに座っていたカイルへと問うた。その横に座っていたロニや少しだけ離れた机でなにやらよく分からない発明を繰り返しているハロルドにも聞こえている様ではあったのでカイルは誰かしらが答えてくれると安全策を考えたうえで「うん?」と密柑を口にしながら答えた。

「人の恋路を邪魔するものは、馬に蹴られて死んでしまえ」
「え?ジューダス馬が好きなの?」
「このっ!バカイル!」

本から目を離すことなく告げれた言葉に反射で答えれば炬燵の中の足をロニに蹴られた。よく分からないけど間違いだったらしい。
でもジューダスが言ったっていうことは、ジューダスのことだ。つまりジューダスは馬に恋をして(しかもヨコレンボだ)邪魔だったから蹴られたんだ。痛かったんだろうなぁとつい心配になったが、ロニが違うというのなら違うのだろう。

「さっきお前が言ったんだろうが」
「なにを?」

扉の奥から良い匂いが届いて、ついついそちらに意識を向けながら一応ロニの言葉にもこたえる。こちらからは見えない扉の向こうではリアラとナナリーが年越しそばを作ってくれている。たまにリアラの嬉しそうな声が聞こえてくるからきっとあっちも楽しいのだろう。

しかしさっき自分がなにか言ったと言われても、「うわぁ今年も凄い服だね」とか「除夜の鐘全部聞くまで寝ないから!俺!」とか「ジューダスは父さん達と年越ししなくて良いの?」とか「ロニ、みかんとって」とかそれくらいだった気がする。

「覚えているじゃないか」
「え?どれ?みかん?」
「その前だよ馬鹿!」

ロニも大変ねぇとハロルドのキャラキャラとした声が居間に響くと間髪入れずに「お前に劣らずな!?」とロニの声が返る。いつも思うけどロニって大変そうだよね、なんか忙しそうで。
えっと、それで、と自分の言葉を思い出す、密柑の前だから父さん達の事だ。
だってジューダスは俺よりも父さん達との方が親しいはずだから、無理して俺の「一緒に年越ししようよ」の言葉に付き合ってくれたのではないかと思ったのだ。その時は「お前…いや、いい」と適当に濁されてしまったのだけど。

「いいか、カイル。今スタンさんとルーティさんはなにしてる?」
「一緒に炬燵入ってテレビ見てるんじゃないかな」
「そうだな、じゃあそこにジューダス来たらどうなる」
「…楽しそうだね!」

違うよ馬鹿!とロニが机に突っ伏すのを見て、またハロルドが子供の用に笑うし、大きな音がしたからかジューダスが炬燵の中でロニの足を蹴っていた。さっきからテレビ付けてても構わず本呼んでたのに、ジューダスの気にするラインってよく分からない。

「無駄だ、別にカイルに理解させたかった訳ではない」
「そうだな…俺も今日くらいは休む」

よく分からないが話が終わったらしい。
結局ジューダスが馬に蹴られるのか恋路がどうとかの意味は分からなかったのだけど、テレビの画面が神社となり始めた除夜の鐘を映しはじめ、台所から美味しそうな匂いを漂わせながらリアラ達が蕎麦を持ってきてくれたからカイルの中でその疑問は瞬時に霧散した。

「ほうら!出来たよ!」
「カイル!おまたせ!」
「…それに、こちらにいても蹴られることに変わりはない」
「そうだな…」
「お疲れ様、リアラ」
「あっらー!分かっててもこっちが良いって素直に言えばいいのに!」
「うるさいぞ」

ずるずると蕎麦をすするカイルの横に座ったリアラが残してあったみかんを口にするのを見ながら、何やら向かいに座る三人は話している様だったけど、やっぱりカイルには何を言っているかよく分からなかった。あの三人はなんだかんだで仲がいい。あそこにナナリーも加わるともっと騒がしくなって楽しい。

「ジューダス楽しくないの?」
「お前は黙って蕎麦を食べてろ」

冷たいことを言いながらも、持ってきてもらった自分用の蕎麦を食べるために本を閉じたジューダスの顔は別に怒っている訳でも呆れている訳でも無くて、父さん達には悪いけど来年も再来年もこの6人でこうやって年を越せればいいのになぁと、願掛けしながらカイルは蕎麦を飲み込んだ。



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