赤で描く(1/5)

手を伸ばした。その先にいたのは鳥だった。めいっぱいに翼を広げ、大空へと羽ばたいた。

どこへ向かうのだろう。

遠くなってゆく影はいつの間にか、広い青の中のただの黒い染みとなり、そしてついに見えなくなった。

そうか。どこへでも行けるのか…。

その時の場所は忘れた。その時の季節は忘れた。誰といたのか。はたまたひとりだったのか。

淡く色褪せた光景は、記憶の海の深くへと沈んでしまった。しかしその中でも、あの鳥の翼の色だけは、今でも鮮明に瞼の裏に焼き付いていた。

白。

それも目の奥が痛むような真っ白。

それゆえに私は白い物を見ると思い出してしまう。遥か彼方へ飛んで行った、あの日の鳥をーー。



[前△] [しおり] [▽次]

<<Back

「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -