赤で描く(1/5)
手を伸ばした。その先にいたのは鳥だった。めいっぱいに翼を広げ、大空へと羽ばたいた。
どこへ向かうのだろう。
遠くなってゆく影はいつの間にか、広い青の中のただの黒い染みとなり、そしてついに見えなくなった。
そうか。どこへでも行けるのか…。
その時の場所は忘れた。その時の季節は忘れた。誰といたのか。はたまたひとりだったのか。
淡く色褪せた光景は、記憶の海の深くへと沈んでしまった。しかしその中でも、あの鳥の翼の色だけは、今でも鮮明に瞼の裏に焼き付いていた。
白。
それも目の奥が痛むような真っ白。
それゆえに私は白い物を見ると思い出してしまう。遥か彼方へ飛んで行った、あの日の鳥をーー。
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